学部の連中に誘われた飲み会は、酒を勧められるばかりで腹に溜まる物がなかった。
悪い奴らではないけれど、女性のあわよくばの視線と思惑が強すぎて辟易してしまい、二次会の参加を断り「恋人が待っているから」と逃げた。
電車に揺られている間に酔いは冷めてきて、今度は空腹を思い出す。
立香への連絡ついでに、家にカップ麺でもないか聞いてみると、『軽い夜食用意しておくよ』と返ってくる。
こんな時間に用意させるのは悪いと思うが、自分の為にと思ってくれるのは嬉しい。
軽い足取りで電車を降りて、家路を急ぎ、玄関をくぐるとリビングから立香が出てきた。
「おかえり。夜食の用意……」
不自然に動きを止めた立香は、すっと真顔になって言った。
「途中だから、先にシャワー浴びて。お酒臭いし煙臭いよ」
「お、おお……」
妙に冷たい声と言うだけ言ってくるりと踵を返した態度にびくっと怯んでしまう。
何か分からないが機嫌を損ねたらしい。
とりあえず逆らうのは悪手だ、言われた通りにシャワーを浴びてそれから話を聞こう。
急いで部屋に荷物を置いて、着替えを持つと浴室へと向かう。
上着を脱いで洗濯機に放り込もうとしてふっと香った匂いに衝撃を受けた。
立香の言った酒と煙の臭いに交じって俺の物じゃない香水の匂いがした。
これか!と頭を抱えて今すぐにでも説明しに行きたくなったが、先にこの匂いを落とさなければならない。
勢いよく服を脱ぐと、浴室に入ってシャワーの栓を全開にして頭から浴びて頭から体から丁寧に、急いで洗った。
バタバタと慌ただしく体を拭いて着替えるとリビングへと掛けこむ。
「立香ごめん、さっきの香水は違う!」
テーブルに料理を並べていた立香がパタパタと駆け足気味にこちらへやってきて、頭からかぶってきたタオルを取るとそのまま上からわしゃわしゃと髪を拭き始めた。
「床に水が垂れてるだろ!」
「ご、ごめん」
もー、とわざとらしく怒りながらある程度髪の水気を取るとタオルから手を離す。
「香水も分かってるよ。シャルルが浮気とかするわけないし、やるんだったらちゃんと俺と別れてからやるでしょ」
「別れる気とか無いからな!」
「知ってるってば!そう言うの分かってても、妬く妬かないは別でしょ。ちょっとムカついた」
シャルルモテるから女の子いっぱいそばにいたんでしょ、と膨れる立香は申し訳ないが可愛かったし、胸がじーんと温かくなった。
ちゃんと俺が立香を愛してるのを理解してくれている。そのうえで、愛ゆえに嫉妬している。
「立香のそういうところ好きだ」
「……もう、匂い落ちたならいいから、早く食べて!冷めるだろ!」
赤い顔を隠すようにコンロの鍋の所へ向かう立香の背中に、絶対に今夜やる、と決意を固めてテーブルの前に座った。