カルデアは罠だらけだ。
「マシュ―――！ダヴィンチちゃ―――ん！」
管制室に飛び込んで自分たちの元にやってきた立香に、マシュもダヴィンチも顔をあげてそちらを見る。
何かを抱えてやってきた立香はキラキラと目を輝かせてとても楽しそうだ。微笑ましい反面、嫌な予感がする。
「どうし」
「見てこれ！」
ダヴィンチの言葉を遮ってまで立香が持ち上げて見せたのは、「ゆるして、ゆるして」と顔を覆ってしくしくと泣いている半ズボンの似合いそうな子供。
カルデアにいる子供サーヴァントではないようだが、とダヴィンチがじっと見ていると、マシュがはっと気づいたように声を上げた。
「まさか、シャルルマーニュさんですか！？」
確かにあの特徴的な白いメッシュはシャルルマーニュと同じもので、マシュの声に上げた顔は幼いが彼の物だった。
「どうしたんですか！？」
「P印の栄養剤を飲んで……」
P、パラケルスス印の栄養剤なんて聞いただけでも危険な代物であることが想像できる。
立香は言うに事欠いて、わざわざパラケルススによく効く栄養剤の開発を頼み、出来た物を飲もうとしたところにやってきたシャルルマーニュが薬の危険性を直感で感じ取り邪魔したところ誤って頭から被ってしまったらしい。
「なんで、そういう事やっちゃうかなぁ」
呆れたように言うダヴィンチの声は届いていないのか、子供のシャルルマーニュを抱きしめ可愛い可愛いと愛で続ける立香。時間が経過すればするほどシャルルマーニュの表情は死んでいっている。
「先輩、シャルルマーニュさんが……」
「可愛いよね、シャルル！ほっぺはもちもちすべすべだし、手足もこんなほそくて、あーっ可愛い！ご飯も食べさせてあげるし、一緒にお風呂入って一緒に寝る！いいよねダヴィンチちゃん？」
子供が拾った犬を世話するから飼っていいかと聞くように、立香はダヴィンチに許可を求める。求める相手を間違っているが、言ったところで聞きはしないだろう。
ダヴィンチは頭を抱えた。
立香の危機感の無さ、自分の失態を理解していないのも駄目だし、そもそも目の前のシャルルマーニュの惨状があまりにも可哀そうだ。
しばらく悩んで、ダヴィンチは指で丸を作った。
「いいよ」
「やった、いいってシャルル！」
「たすけて……」
はしゃいでシャルルマーニュを抱きしめる立香を見ながら、ダヴィンチはさらに続ける。
「シャルルマーニュ、君にも許そう。立香君に怪我をさせたりしないのなら……今日はなにしちゃってもOKだよ！それこそ直接の魔力供給だって、ね。その身体じゃできる事も限られてるかもしれないけど、ほら、子供ならではの迫り方ってあるよね」
その言葉に立香の顔は引きつり、シャルルマーニュはぱっと目を輝かせた。
「だ、ダヴィンチちゃ……」
「自分が蒔いた種から育った惨事だ、よーく反省しておくれ」
ぱちんとウィンクを飛ばすダヴィンチは流石の愛らしさだったが、立香の内心はそれどころではない。
ぐいぐいとシャルルマーニュに服を引っ張られて恐る恐る見れば期待の視線が突き刺さった。
視線をあちこち彷徨わせても、先ほどまでの状態を見ていた周りに味方はいない。
「一緒に風呂入って、一緒に寝てくれるんだよな！」
にこーっとでも擬音のつきそうな笑顔に、NOを突き付ける事は出来ず、立香は自分の行動を後悔しながら小さく頷いた。