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    pheas357

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    pheas357

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    多分迷子になったタイレーツを仲間のところへ送り届ける話が書きたかった。

    …………工場長でやる意味?推しと推しの組み合わせは最高でないの(`・ω・´)キリ

    見渡す限り、緑の草原が広がっている。時々草の中から顔を出す岩の1つに座って、ネジキは一息ついた。
    岩の中には割れ目の入ったものが多くあり、今ネジキが座っている岩にもすぐ隣に大きなひび割れが入っている。ものによっては地下にある空洞で他の割れ目と繋がっているというが、中がどうなっているのか、今のネジキは知らなかった。
    野生のポケモンも生息しているだろう。すぐそばに大きめの出入口があるという事は、もしもここからポケモンが出てきたら、突然目の前に現れたネジキに驚いて襲ってくるかもしれない。
    荷物の中から小さな機械を出してスイッチを入れる。ポケモン子守唄のメロディーが流れ出した。周囲の野生ポケモン達を落ち着かせる事と、相手の視界に入らない位置から自分の存在を知らせるために使っている。ジョウト地方などではラジオから流れるが、受信出来るエリアが限られる上に、日替わりなので、いつでも好きな時に流せるように音源を入れた自作の小型プレイヤーを持ち歩いていた。
    軽く携行食を摂ってから少しだけ休憩するつもりだったが、子守歌にポケモンどころかネジキ自身がなんだか眠くなってくる。思えば今日は朝からずっと歩き通しだったと、眠気に身をまかせそうになったが、上体が倒れかかったのを反射的に支えようとして岩に片手をつき……
    手の先には虚空があった。座っている横に大きな割れ目があったとそこで思い出す。なんとか立て直そうとしたが、完全にバランスを崩していて、そのまま体ごと落ちてしまう。割れ目はネジキの体が通るほどの幅で、内部は更に広がっていたために、岩などに叩きつけられる心配がない代わりに、手足を掛ける事も出来ず、そのまま落下する。このままでは何メートルも下に叩きつけられて、結局ただでは済まないだろう。
    恐怖に思考が侵され、意味もなく両目を閉じる。一瞬後に訪れる衝撃を予感する。
    突然落下が止まる。慣性なりに多少の衝撃はあったが、激突したような感覚ではなかった。それでもすぐには目を開けられず、まともな思考も出来ない。
    数秒して手足を何かが押さえているような感覚に気が付き、ゆっくりと目を開けてみる。上から差してくるわずかな光に、何かの影が浮かんでいた。小柄な人間ほどの大きさで、誰かが受け止めて助けてくれたのかと思ったが、すぐにそれが人間ではない事に気付く。顔のように見えた部分の周りから触手が伸びて、ネジキの両手足にしっかりと絡みついている。そこにいたのはユレイドルだった。本来は絶滅したはずだが、化石を再生する技術が実用化された事で蘇り、繁殖もして、野生化した個体もいるらしい。未確認とされているもののごく一部の地域では生存しているとも。
    あの危機的状況から助けてくれるなら相手が人間だろうがポケモンだろうがありがたい事に変わりはない。だがこれは助かったというわけではなさそうだ。ユレイドルは触手を使って獲物を捕らえると、直接消化して食べてしまう。状況的にどう考えても死因が転落から捕食に変わるだけではないだろうか。それに、ユレイドルは食べる前に獲物にとどめを刺す手間などかけてはくれないらしい。つまり生きたまま食らうわけで、余計な知識など思い出すんじゃなかったと後悔と恐怖に包まれる。これなら一瞬で終わりそうな転落死の方がずっとましだった。
    ネジキを自分より少し高い位置で捕えていたユレイドルが触手を縮ませて顔に近付ける。ネジキは手足をばたつかせて抵抗しようとしたが触手の力は思った以上に強く、全く動かなかった。
    恐怖や絶望や、なんだかわけのわからない感情がごちゃまぜになって、じわりと涙があふれる。
    「誰か!助け……んん!」
    叫ぶ口を何かに塞がれて声も出せなくなる。
    完全にパニックになったが、暴れようとしても体が動かせず、声も出せず、恐怖を発散する手段はほぼ封じられている。唯一残された方法は、その意識を閉ざす事だった。
    最後の瞬間に、遠くの方で何か声が聞こえた気がしたが、そのまま何もわからなくなった。

    不意の強風に帽子を飛ばされ、ダツラは周辺を探し回っていた。上空から広範囲を探したり、感知能力を持ったようなポケモンを連れてこなかったために、だだっ広い草原を自力で歩き回って探さなくてはならない。
    そこまで強い風が吹き続けているわけでもなく、そう遠くへ飛んではいないだろうが、地上をいくら探しても見つからない。周囲には地中へと続く割れ目の入った岩がいくつかあり、これは中に落ちてしまったのではないかと、意を決して内部へと入っていった。
    中を歩き回るうちに、どこからか音が聞こえてきた。ポケモンの声とは違う、もっと人工的な音質だった。いくら探しても帽子は見つからず、他にも人がいるのなら見かけていないか、あわよくば拾っていてくれないかと思い、近付いていく。
    だいぶ近づいた、そう思った時、上から人が降ってきた。人、というか、どう見てもネジキだった。割れ目に落ちたらしく、このままでは下の岩に叩きつけられてしまう。走っては間に合わないと判断し、とっさにボールからユレイドルを出した。ユレイドルは落ちてくるネジキに向かって首と触手を思い切り伸ばし、なんとか空中で受け止める。
    ……まではよかったが、ネジキはどうも野生のユレイドルに捕まったと勘違いしたらしかった。
    少しだけからかってやろうとしたのと、大声を出してそれこそ他の野生ポケモンを刺激してもまずいと思ったダツラは叫ぶネジキの後ろからそっと近づいて口を塞ぐ。ネジキはすぐに黙ったので手を離したが、その途端、がくりと項垂れる。ユレイドルがネジキの足が地面につくところまで下ろしてから触手を離すと、そのまま膝が折れて倒れかかった。
    「お……おい!」
    慌てて多少乱暴に抱え、それからしっかりと支え直す。見るとネジキは完全に気を失っていた。
    『……やりすぎたか……』
    少し後悔しながら軽く叩き、揺すってみる。
    「ん……」
    ネジキがゆっくりと目を開ける。
    少しボーッとしていたが、記憶が繋がったらしく、慌てて飛び上がる。
    「落ち着けって!」
    軽く押さえ込むようにして抱き寄せ、宥めるようにそっと撫でる。一度おとなしくはなったが、そこへ横からユレイドルが覗き込んだので思わず悲鳴を上げそうになる。
    これは完全にうっかりだったと思いながらダツラがユレイドルをボールに戻したので、ようやくネジキも状況を理解したらしい。
    「あの子、ダツラさんのポケモンだったんですか」
    「ああ、悪かったな、脅かして」
    急にネジキの体から力が抜けて、ダツラに全身をあずけてもたれかかった。
    「ネジキ?!」
    「……大丈夫、ちょっと気が抜けただけー」
    元の状態に戻るまでと、ダツラはしばらくネジキの背を撫で続けた。

    「あれ?ダツラさん帽子は?」
    落ち着いてから改めて顔を合わせて、ネジキが言う。
    「ああ、さっき風で飛ばされちまってな、……その様子だと見かけてねえな」
    「うん、じゃあ一緒に探すよ」
    「ありがてえけど、いいのか?」
    「うん、特別やらなきゃいけない事があるわけじゃないし、助けてもらったしー」
    楽しそうに言ったものの、上を見上げて少し難しい顔になる。
    「ま、とりあえず荷物取ってきな、近くに出口もあったからよ」
    地上に出られる場所まで案内したが、隙間が小さい。ダツラは通れない事はなさそうだが、もしもつかえてしまってはと中で待つ事にして、ネジキだけが出て行った。
    荷物を置いていたところまで移動して回収し、戻ろうとした時、先程落ちた穴の中からダツラの声がした。覗くと下でダツラが両手を広げている。
    「そっから飛び降りろ、受け止めてやる」
    いくらなんでもこの高さでは危ないだろうと思ったが、ダツラは本気で言っているらしい。
    「大丈夫だって、ほら」
    ボールからユレイドルが出てきて、ネジキの方へ向かって首を伸ばす。今度こそは相手に危険がないと分かっているネジキは意を決してユレイドルに向かって飛び降りた。
    今回は事前に分かっていたためか、さっきよりは優しく受け止められる。
    「さっきはありがとうねー」
    降ろされた後で頭を撫でてやると、喜んだようにすり寄ってきた。

    周囲はところどころの割れ目から入り込む光と、絶妙な偶然による光を反射する岩のおかげで少なくとも昼間は特別灯りが必要ないくらいには明るかった。再びダツラがユレイドルをボールにしまい、2人で帽子を探し始める。手分けして探すとも考えたが、中の様子がよくわからず、なるべく危険を避けるために一緒に行く事にした。
    迷ったり同じところを何度も通ったりしないように印をつけながら進む。そこまで複雑な分岐もないものの、曲がり角はけっこう多い。帽子が勝手にこんなたくさんの角を曲がっていったりするだろうか、野生のポケモンもほとんど見かけないし、やはり中にはないのでは、と思い始める。

    次に出口が見つかったら一度外へ出てみよう、と話しながら角を1つ曲がる。そこは行き止まりになっていたが、壁の前に丸い岩があり、その上に帽子が乗っているのが見つかる。
    まるで岩が帽子をかぶっているように見えるが、誰かが置いたのだろうか。岩の大きさが少し大きいイシツブテくらいだったために、擬態している可能性も考えて慎重に近づいたが、本当にただの岩らしい。
    安心したようにダツラが帽子に手を伸ばした瞬間、岩の陰から何かが飛び出してきた。
    「ギッギュイッ!」
    間一髪で飛びのいたダツラの前で、何か小さなポケモンが威嚇するように声を上げ、足を踏み鳴らす。
    「……タイレーツ……?」
    だが何かおかしい。本来タイレーツは常に6匹集まって行動するのだが、ここには1匹しかいないようだ。
    『……仲間とはぐれたのか?』
    威嚇が通じる様子のないダツラを見て、タイレーツは少し下がる。逃げるかと思ったら、帽子を置いた岩の横に立って、岩を揺らしながら再び威嚇してきた。
    「もしかして、岩と帽子でせめてもう1匹いるように見せてるんじゃないの?」
    ネジキに言われて気が付いたが、確かに岩の大きさや色からすると十分可能性はありそうだ。ずいぶんうまくいい岩を見つけたものだと思う。
    「……なあ、仲間を一緒に探してやるから、帽子は返してくれねえかな」
    出来るだけ穏やかに話しかける。
    「ギィ……ギィ……」
    しばらくこちらを睨むようにしながら考えていたが、帽子を角に引っ掛けてからダツラに差し出す。
    「ありがとな」
    「きゅー、きゅー」
    帽子をかぶり直しながら言うと、タイレーツは急にダツラにすり寄りながら泣き出す。
    「よしよし」
    撫でてやりながら周囲を見渡す。当然ながら見える範囲に仲間らしき姿は見当たらなかった。
    ネジキがタイレーツにマシンを向けている。
    「こういう群体型のポケモンは群れごとにちょっとずつ違ってくるからねー、近くにいたら分かるようにしようと思ってー」
    一度付近をスキャンしてみたが、さすがに見つからない。
    「どっちから来たか分かれば、もうちょっと絞れるんだけどねー」
    タイレーツが歩き出す。来た道を戻っているのか、ただやみくもに進んでいるだけなのかはわからなかったが、とにかく2人ともついていく。
    「仲間同士で連絡取り合う手段なんてもんはねーのか?」
    「いつも通りの距離だったらどうにかしてコミュニケーション取ってるだろうけどねー、はぐれちゃうとどうだろうねー」
    「きゅー、きゅきゅーっ」
    通路の途中で立ち止まったタイレーツが、高い声で鳴く。声は複雑な洞穴のあちこちに反響する。またしばらく進んでから同じように鳴き、洞穴に声をこだまさせる。
    何度目かに同じ行動を繰り返し、こだまが次第に小さくなって消えかかった……と思われた時、突然それまでより大きな声が返って来る。今度は明らかに意思を持って走り出したタイレーツに、ダツラとネジキも急いでついて行った。
    「きゅーっ!きゅーっ!」
    声が近付いてくる。マシンをチェックしたネジキがうなずいた。
    「近くに群れがいるみたいだよー」
    しばらく進むと、通路の前方から他のタイレーツ達が走って来るのが見えた。薄暗い中だったが、5匹いるように見える。互いの反応とネジキのマシンからしても、同じ群れの仲間で間違いなさそうだった。
    余計な警戒をさせないように、ダツラとネジキは立ち止まり、タイレーツだけを行かせようとした。走っていくタイレーツを見送っていたが、ふと周囲の様子がおかしい事に気付く。
    天井と壁から砂が流れるように落ちる。直後に亀裂が走り、壁と天井が崩れ落ちた。
    「危ねえ!」
    ダツラがタイレーツを抱えて引き戻す。崩れた土砂はダツラの足元まで迫っていた。
    「ダツラさん!」
    ネジキが一瞬遅れて走ってくる。タイレーツはパニックに陥り、ダツラの腕から飛び出して崩れた土砂を除けようとするように角で突いている。闇雲に突いたまわりが崩れ、足元に積もる。
    「落ち着け、今なんとかしてやるから!」
    ダツラが再びタイレーツを抱き上げた。じたばたと暴れて抵抗するのをどうにか押さえ込む。
    「きゅーっ!きゅーっ!」
    仲間の身を案じるように、土砂の向こう側へ呼びかけるように鳴く。
    「きゅきゅー!」
    反対側からも声が返って来る。音声分析をしたネジキが少しほっとしたような顔になる。
    「5匹分だ、向こうもみんな無事みたいだよー」
    タイレーツを撫でながら言うと、目の前の土砂の山を見上げる。
    「とにかく、こいつをどけねえとな」
    多少落ち着いた様子のタイレーツを下ろしてから、ボールを取り出した。
    「ユレイドル、ようかいえき!」
    「ぎぎっ!」
    積もった土砂を溶かして先へと進む。再び道が開き、今度こそタイレーツ達が合流する。
    「きゅーっ」
    「きゅっきゅっ」
    集まって嬉しそうにじゃれ合う姿に、ダツラもネジキもなんだか嬉しくなってくる。
    と、迷子になっていたタイレーツが寄ってきた。
    「きゅっ!」
    ダツラとネジキを見上げて笑顔を向け、……直後に神妙な顔になる。タイレーツが見上げたダツラの腕に、切り傷ができていた。先ほど抱いている間に、角が当たっていたらしい。
    「きゅう、きゅ……」
    悲しそうに鳴くタイレーツを、ダツラは反対側の手で撫でる。
    「大丈夫、大した事ねえよ」
    傷は皮膚の表面に軽く当たっただけらしく、既に出血も止まっていた。
    「ほら、みんな待ってるぞ」
    言われて仲間の方へと戻っていく。
    その先にあった出口から地上へ向かう2人を、タイレーツ達は並んで見送っていた。

    外へ出たところで、突然風が吹きつける。押さえる間もなく、再びダツラは帽子を飛ばされてしまった。
    まったく今日は風運が悪いと思いながら追いかけたが、少し高い木の枝に引っかかっていて、手を伸ばしても届かなかった。
    何か踏み台に出来そうなものは、と辺りを見回すと、タイレーツ達が地上に上がってきている。そして木の下に立つと、1匹ずつ仲間の上に登っていく。
    人間の背丈より高くなると、一番上にいたタイレーツの角がぎりぎり帽子に届いた。引っ掛けて枝から外し、次の瞬間全員がバランスを崩して転がる。
    慌てる2人の前でそれでもどうにか体勢を立て直し、帽子を拾い上げてダツラに差しだす。
    「ありがとうな」
    1匹ずつ撫でてやると、タイレーツは再び穴の中へ、時々振り返りながら戻っていった。

    「……おめえも撫でて欲しかったか?」
    「何言ってるんですかっ!」
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