星形の贈り物今日は七夕だ。
と、さっき眺めてたテレビがそう言っていた。
食事も風呂も済ませて寝るまでの自由で穏やかな時間の中、縁側で紫煙を燻らせながら夜空を見る。
なかなか見事な星空だ。
今夜は天の川ってのも見れるかもしれねェ。
などと思っていると、背後から足音が近づいてきた。
「おー、今日はいい夜空だな」
声の主はそう言いながら隣に腰掛ける。
「銀時」
「ほい酒」
側に置かれた小さめの盆には徳利と猪口が二つ乗っているのを見て、煙管を片付けた。
猪口を取ると自然な動作で酒を注がれる。俺も銀時に注いでやりたいと思ったが、自分のは自分で注ぎやがる銀時に心の中で舌打ちをする。
「今日は特別なつまみがあるぜ」
そう言った後、後ろに隠してあったらしい小鉢を見せる銀時。小鉢にはオクラと長芋の和え物が盛られている。
「でもまずはこっちか」
銀時が猪口を差し出したので軽く合わせた後、酒を飲む。一気に飲むには勿体無い質の酒だが、銀時はそれをしている。
「ほんとこの酒美味いよな〜」
そう言いながらまた自分で注ごうとしていたのでその手を軽く遮り、持った徳利を傾ける。
「あ…りがと」
照れながらそう言う銀時に満足した俺は箸で小鉢の中身を食べる。
「ん、梅か」
「さっぱりしてていいだろ?」
「あァ、美味ェ」
「オクラは畑で取れたので、長芋は近所の人がくれた。梅干しは常備してあるヤツ。あとはテキトーに味付けしただけ」
そこで一旦会話が切れ、二人で星空を眺める。
「オクラってさ、切ると星形になるだろ」
銀時は箸で摘んだ一つのオクラを差し出した。それは確かに綺麗な星形をしている。
「だから今日にピッタリだと思ってよ」
そう言って笑う銀時に釣られて俺も笑う。
小鉢の中身が空になり、酒を飲みながら夜空を見る銀時に懐から用意していた物を差し出した。
「ほらよ」
用を済ませた後、歩いていた街中で見つけた金平糖だ。
「おっ、金平糖!」
「これも今日にピッタリだろ」
星のような形と色合い、そして甘味である事。それを見てすぐに銀時の顔が浮かんだ。
「いただきます」
「開けんの早ェな」
そんな俺の呟きを気にせず、いくつかの金平糖を口に含む銀時。徐々に幸せそうになるその表情はガキの頃から全く変わりない。
「これ、良いヤツじゃね?」
そう言われていくらだったかと思い出す。一袋二千円くらいした気がするが、店構え的にはそんなもんだろうと特に気にしなかった。
「俺が駄菓子屋の金平糖を買ってくるとでも?」
「……似合わないね」
二千だろうがそれ以上だろうが、こいつの幸せそうな面を隣で眺められるなら安いもんだ。
「あっ、今流れ星流れた!」
興奮気味な声でそう言われて空を見るも、もう流れ終わった後らしかった。
「酔ってぼやけた視界がそう見えたんじゃねェのか」
「ちっげーし!」
「で、何願ったんだ?」
そう尋ねて銀時の顔を見ると、徐々にニヤァとした腹の立つような表情に変わる。
「高杉君がこれからも高級スイーツたくさんくれますようにって」
「んなもん、しょっちゅうやってるだろ」
「全然足りてないから〜 もっと寄越しやがれ」
「たかってんじゃねェ」
くだらないやり取りをしながらも、俺は口角が上がった。
つまり、これからも俺と一緒にいたいって事だろ。
その願いなら叶えてやらねェとな。
*****
今日にピッタリだと思ったものを差し出す二人。