クリスマスケーキ郊外で銀時と暮らし始めて数ヶ月が経った。今日は初めて二人だけでクリスマスを迎える。
用があって街に出ると、街の雰囲気はクリスマス一色だ。クリスマスなんざ個人的には特に思い入れがあるわけじゃねェが、また子を筆頭に部下達が色々やってたのを思い出して懐かしい気持ちになった。
銀時とクリスマスを迎えるに当たって一つだけ準備をしている事があり、用が済んだ後に予約していた店で物を受け取る。
その袋をぶら下げながら歩いて家に帰った。
帰る頃には夕方になっていて、この時期は夕方でも大分暗くなる。
玄関の電気は着いていなかったから銀時も不在なのか、それとも昼寝をしているだけなのかと思いながら扉に手をかけると簡単に開いた。後者である事を悟りつつ、相変わらずの不用心さにため息を一つ。しかし中に入った瞬間にふわりと甘い匂いが漂ってきて、不在でも昼寝をしているわけでもない事を察する。不思議に思いながら匂いの元となる部屋へ向かうと、台所で銀時がケーキのスポンジにクリームを塗っているところだった。
「……ただいま」
「んあ? おう、おけーり」
「何してんだ?」
「何って、見りゃわかるだろ。ケーキ作ってんだよ、クリスマスケーキ」
昔から器用に色々こなすやつではあったが、ケーキまで作れるようになっていたのは誤算だった。
「んなモンまで作れるようになったのか」
「おうよ。好きな食い物は自分で作った方が好みの味になるからな」
嬉しそうにそう言う銀時に対し、手に持つ袋はどうしたものかと考えていると、目敏い銀時が袋の存在に気付いた。
「高杉、その袋もしかして……」
気付かれたならと思い、袋を机に置く。
「クリスマスケーキだ」
「えっ、高杉が選んだの?」
「あァ。お前の為に買ってきたんだが、自分で作った方が良ければそっちを食えばいい」
そう言った後、部屋着に着替える為に自室へ向かった。
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銀時作のクリスマス料理を食べた後、ケーキが運ばれてきた。
銀時は自分で作った分と俺が買ってきた分の両方をテーブルに並べる。
「おい、まさか両方食う気か?」
「やろうと思えばできるけど、流石にもういい年だし」
「じゃあ何で二つ並んでるんだ?」
「俺は高杉が買った方食べたいから、高杉は俺が作ったの食べてよ」
「はァ?」
ホールケーキを両方食いかけにするつもりか?銀時の意図が読めないでいると、
「だってさ、高杉は俺の為にケーキを買ってきてくれたんだろ? だから俺はこっちが食べてェの」
そう言いながら嬉しそうにケーキを切り分けて皿に盛る銀時。
「ま、味は負けてないと思うよ」
銀時作のケーキが乗った皿を俺の方へ寄せられる。そんなケーキをフォークで取って食べてみると、口の中でふわりと甘い香りが漂い、見た目以上に上品な味に口角が上がった。
「……違いねェ」
来年はケーキではなくて良い苺を買ってきてやろうと思いながら更に一口、フォークに取って口に含んだ。
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銀時の為にケーキを買ってくる高杉と、高杉と過ごす為にケーキを作る銀時のお話でした。
ご近所さんになって幸せな隠居生活をたくさん眺めたいものです。