春永早月は完璧な男だ。
彼を知る者はおそらく口を揃えてそう答えるだろう。ドライバーとしての実力は勿論だが、端正なルックスで人当たりが良く、常に笑顔で後輩達の面倒見もいい。それに加えて天性の才能に胡座をかくこともなく、見えないところで努力も怠らずメンタルの強さも持ち合わせている。同世代のF4ドライバーの中でも一際華やかで、期待度が高い選手であることは間違いない。
まぁ、俺に言わせればチャラくてキャピキャピ煩い奴だがな。今日も今日とて早月の行く先々にしつこくつきまとう子猫ちゃん達に向けて、ファンサービスに余念がない様子を一歩引いて見守る俊軌が小さく溜息を漏らす。そんな小さな変化すら見逃さない早月がくるりと身を翻し、だめだよトシくん溜息なんてついたら幸せ逃げちゃうよ!と制止するように、すらりと伸びた人差し指で俊軌の唇にちょん、と触れる。
「……ッ!」
そう、こういうところだ。人前だろうが二人きりだろうが構わず触れたり、肩を抱かれたり、恥ずかしげもなくスキンシップを取られるとどう対処していいのかわからなくなる。そんな仕草も、女達にとっては堪らないのだろう。俊軌は、うっとりと溜息を漏らすファンの視線に居た堪れなくなり、踵を返すと早足でその場を離れる。
「あれ?どこいくの?」
「…うっせぇ、ついてくんな」
後ろ姿でも、真っ赤に染まった耳で俊軌がどんな表情をしているか容易に想像がつく。にんまりしながら早月は、ファンにじゃあねと手を振ると黄色い歓声を浴びながら、待ってよトシくーん!と軽やかな駆け足で俊軌の後を追いかけた。