ベツレヘムの星「あれ? 水上やせた?」
その心根を体現するかのような、おろしたての鉛筆のごとくピンと伸びた背筋は記憶のものとなんら遜色なかった。
こちらの考えを全て見透かすような深緑の虹彩も、凛々しくよった眉根も、撫で付けられた前髪も、よく鍛え上げられた身体も。何もかも、過ぎ去った月日を感じさせぬほどに水上の記憶の中に保存されていた姿と変わらず、まるでコピーアンドペーストでもされたかのような光景だ。そのあまりの再現度に思わず水上は持っていたビニール袋を落としてしまう。水上の腹に収められる予定だった麻婆豆腐は地面に叩きつけられおそらく袋の中で哀れな姿を晒していることだろう。目の前の生駒はすっかり動きを停止させてしまった水上に歩み寄ると、ひしゃげた袋を拾い上げる。温められた惣菜特有の籠った香りが静まり返った夜道に広がった。
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