花は愛でてこそ 火の消えた蝋燭の煙は、随分前に夜風に攫われたのだろう。青き月光だけが侵入を許されたその部屋に、祝宴の席で散々持て囃され消耗した部屋の主が寝息を立てていた。
数歩先の位置に寝台があるというのに、月の光と同じ色をしたその少年は椅子に腰掛けたまま机に伏して眠っている。皺にならぬようにと避けられた数枚の紙にはどれも奇怪な絵が描かれており、饅頭のような物体から四方に向かって大きな羊歯のようなものが生えているそれを見ても、此奴が何を描こうとしていたのかを窺い知ることは出来そうにない。
――己の目で見たこともないものを描こうとするから、このような訳のわからないものが出来上がるんだ。
今よりも幼かった頃の此奴に思ったままの感想を伝え、頬を膨らませ拗ねてしまった此奴のその時の顔を思い出してしまい、思わず笑いがこみ上げた。
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