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    sikosyabu

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    sikosyabu

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    ワンドロ「身分差」「首」
    ※別の週のお題「嫉妬」も入ってます

    KISS以上えっち未満の頃の弟子バロ。
    バンジークスは、亜双義の部屋から女性が出てくるのを目撃してしまう。

    5ンドロでした。

    #弟子バロ
    apprenticeBallo
    #アソバロ
    asobalo
    #従バロ
    secondary

    【弟子バロ】バロック・バンジークスと大いなる謎 決して見ようとして見たわけではない。
     それは確かであるし、夜に書斎に行こうとしたのも、元をたどれば亜双義のせいである。
     慣れ親しんだ廊下にて、バンジークスは混乱と共に立ち尽くしながら、どうしてこうなったのかを静かに考えていた。
     ――またグラスを置きっぱなしにして……。普段から物はあるべき場所に戻すべきだ。神の雫は管理できるのに、どうして他はてんでダメダメなのか理解に苦しみます。そんなだから支給の銃すら紛失するのです。
     ことあるごとに口付けを求める相手だというのに決して甘やかさないあの態度。好ましいとは思うが、あまりの切れ味に、その場にいた執事の顔色がものすごいことになっていたのが昨日のことだった。
     就寝前の読書にて、読み終わった本はテーブルに置いておくのが習慣である。普段ならば翌日戻すし、それをうっかり忘れ続けて山となれば、見かねた使用人が戻してくれる……というのが稀にある。いや、月に一度くらいか。いや、多忙のときは二、三度あったかもしれぬ。
     貴族階級――バンジークスにとっては普通のことだったが、まるでしつけのなってない子供を見るような目を狼藉者から向けられるのは、ばつが悪かった。
     とにかく、深夜の手前ほどの遅い時間に、寒くて暗い廊下を進み、わざわざ書斎に本を戻しに行くという行為は、バンジークスにとってはイレギュラーな行為であった。
     だから、見てしまった。
     亜双義に貸している客間から、若いメイドが頬を染めて速足で出ていくのを、目撃してしまったのだ。
    「…………私は何を」
     額の傷に触れ、やれやれとため息をつく。
     亜双義の不貞を疑うつもりはない。熱烈に告白し、口づけをねだり、法解釈をなんとかして抱きたいとまで真正面から言ってくる男が、今更他者にその目を向けることはないだろう。
     あの亜双義だ。もし心変わりをしたら、正直に告げてくるはずだ。
     ――申し訳ないが、別の人に恋をした。貴君とのアレコレはなかったことにしていただきたい。
     いつもと変わらぬまっすぐな眼差しでそう言われるのを想像し、ずくんと胸が痛んだ。
     なんと愚かな考えを。
     震える息を吐き、バンジークスは足音を殺しながら書斎へ向かった。
     亜双義には、何も言わなかった。

     重い荷物を常に背負っているような心地で、バンジークスは数日過ごした。
     もちろん仕事の手は緩めない。亜双義とのやりとりにも何ら変わりはない。しかし、何かもの言いたげな眼差しを感じることもあり、意識しているせいでそう思うのか、それとも実際に仲がぎくしゃくしているのか、分からなくなってきた。
    「バンジークス卿。今夜、貴君の本を借りても?」
     二人きりの執務室である。
     何気ない会話の合間に差し込まれた、手の甲をなぞりながらの誘いで、どくんと心臓がはねた。
     最初の最初は本当に本を貸し借りするだけだったのだ。それが、いつのまにか形骸化して、夜の誘い文句になってしまった。
     無論まだ清い関係である。口づけはするが性器には触れない……たまに服越しにあたることもあるが……押し付けられることもあるが……決定的な一線を超えてはいない関係である。
    「こ、今夜は日がよくない」
    「そう、ですか」
     目が見れず、どんな顔をしているか分からない。が、笑顔でないことだけは分かる声色だった。
    「明日ならよい」
    「明日」
    「多分」
    「まあいいでしょう」
     すっと手の甲を撫でながら亜双義は身を引いた。
    「何か悩みでもあるなら、早めに吐いた方がラクになりますよ。師匠殿」
    「………………余計なお世話である」
    「失礼しました」
     涼し気な顔で、男は背中を伸ばしたまま部屋を出ていった。
     残されたバンジークスは、硬質な足音が去ってしばらく経ってから、ずるりと姿勢を崩す。
     冷静だが棘のある態度は、確実に怒りを孕んでいた。あれは「このオレに隠し事があるなら明日にはどんな手を使ってでも吐かせてやるぞ」という脅しにしか聞こえなかった。
     蛇のような執念深さは知っている。何をされるのか考えるだに恐ろしく、無意識に口や胸を守るように手が体の前に出る。
    「別に、隠しても悩んでもおらぬ……」
     吐いた言葉は強がりだった。でも、「あのメイドと何をしていたのか」なんて、亜双義に訊くのだけは絶対にしたくなかった。
     
     
     使用人との線引きをしっかりしなさい、と言われて育った。貴族とはそういうものだ。
     バンジークスにとっての常識を、いつも亜双義は簡単に破ってみせる。
     使用人と親しげに話し、使用人専用の出入り口を「近くて便利だから」と平然と使う。注意すべきかどうか迷い、結局しなかった。はっきりとした答えにはならないが、玄真もそうするだろうと思ったからだ。
     以前はバンジークス付きの従者という立場だったのだから、彼らと同じような立場だった。が、その過去がなくともきっと変わらない。我らには当たり前にある階級の壁というものを、亜双義らは感じないのだ。
     夕食後、寝室に茶を運ぶように頼んだところ、思った通り例のメイドが持ってきた。
     ぱっちりした目にそばかすが印象的な娘である。夜に若い男の部屋に通うような風体には見えないが、見た目の印象がいかに頼りにならないか、検事はみな知っている。
    「んんっ、ちょっと」
     使用人への話しかけ方に迷うなど、他の貴族が知ったらどんなにか笑うだろう。
     そんなことを思いながら顔を上げれば、若い女は泣きそうな顔をしていた。盆を持つ手がぶるぶる震えている。
    「旦那様、申し訳ありません! 紅茶に何か髪の毛など……」
    「いや、違、」
    「ままままさか私をクビに 待ってください、うちには小さな弟がいるんです!」
    「落ち着け、大丈夫である。アソーギの部屋に行ったか訊きたいだけで」
    「びえええええん! ごめんなさい命だけは助けてくださいいいいいい!」
     泣かせてしまった。ぶんぶんと金髪のおさげを振り、女は取り乱す。こんなにも言葉というものが頼りないのかと、半ば呆然としてしまった。
     何事かと年かさのメイド長までやってきて、一大事になってしまった。
     
     結局、メイドに質問どころではなくなってしまった。
     白髪に丸眼鏡のメイド長は、バンジークスが生まれる前から仕えている古株である。頼りになるが厳格で、夜の部屋通いを知ったら説教どころでは済まないかもしれない。
     主人の客(?)とねんごろになるとは何事か。そんな叱り文句を思い浮かべ、ずんと肩が重たくなった。
     一時間ほど読書をしようとあがいたバンジークスだったが、集中できずにため息をつく。
    「まったく、何をやっているのだ、私は……」
     亜双義に直接訊けばいいことは分かっている。だが、そんなことを口にすればどうなるか。
     まるで嫉妬をしているようではないか。
     彼女といかがわしいことをしていたなんて一切思わない。おそらく彼女の片想いか、法律の相談にのったとかそういうアレだろう。
     夜に男の部屋に通うのは、非常によくないことだ。本人たちにその気がなくとも、どんな誤解を受けるか分からない。倫敦市民はゴシップに飢えている。噂が一人歩きして悪評になれば、彼女の結婚に障りがあるかもしれない。「部屋通いを知った年長者」としては、セットで注意もしなくてはならなくなる。
     これは嫉妬でない。が、言葉にして尋ね、たしなめた瞬間に嫉妬と見分けがつかなくなり、亜双義一真という男を調子づかせるのは目に見えていた。
     喜ばせるのはやぶさかではないが、こういう形では不服である。
     まるで、年下の男に入れあげているような。こちらからすがりつき寵愛をねだるような。威厳もプライドもあったものではない。
     亜双義の気持ちを全く疑っていないのだから、これは嫉妬ではないのだ。
    「はあ……」
     首の後ろをさすりながら、バンジークスは立ち上がる。上着を着ておらず、気付けば体が随分と冷えていた。ガウンを羽織り、机の上に溜まった本三冊を抱える。
     気分転換とばかりに部屋を出た。階段を降りる途中、周辺視野が明かりを捉えた。
    「」
     客間の扉がゆっくりと開く。
     亜双義の部屋からこそこそと出てきたのは、頬を赤らめたメイド長だった。
     
     
    「ア、アソーギ……! あまりにも見境がないのではないか 誰でもよいのか」
    「ほにゃ?」
     ばん、とドアを勢いよく開けてから、バンジークスは己が衝動的な行動をとったことに気づいた。
     きょとんと振り向いた亜双義は裸――ではなく、ジャケットを脱いで腕まくりした軽装であった。ちょっと安心する。
    「どうしたのです? 愛を確かめ合うのは明日という予定でしたが、別にオレはいつでも」
    「夜な夜な女性を部屋に引っ張り込んで一体何をしているのだ!」
    「よ……、あ~~~~~~~~、はいはいはい、なるほど、あ~~~~はいはい」
     亜双義は拳を口元に当て、しゃがみこんだ。前傾して動かないが、何かに大きく納得しているのは分かった。舐めくさった態度である。
     ここまで来て、急に冷静になった。
     いかがわしいことなどするはずがないし、部屋の様子に乱れたところもない。やはり何らかの相談や計画によるものだろう。己より年上のメイド長も相手に加わったのなら、むしろ色事からは随分離れる。
     これは嫉妬ではないがしかし、外から見れば非常に紛らわしい行動である。
     かっと頬が熱くなり、逃げ出したくなった。
    「ッ~~、いや、違う、不貞ではないと分かっている。もうよい帰る」
     大股で廊下へと向かいドアノブを握る。開けようとした扉が、ダン! と閉まった。
    「待って」
     動けない。脈拍がはやまる。
     背後から、亜双義が手でドアを押さえていた。限りなく抱擁に近い体勢で両手がドアを押さえていて、腕の間に閉じ込められた。背中に体温を感じる。
    「言い訳くらいさせてください」
    「いい! そんなことが聞きたくて来たワケではない。気にしてなどおらぬ。ただ、夜に女性を部屋に入れるのは、そなただけでなく相手の名誉を傷つけることにも繋がるから、そういった不適切な行為は慎むべきであると、目撃してしまった者の義務として――」
    「そんなのお互い分かってます。前から他の者には見られない時間を狙っていたのに……。なるほど、書斎に行くところだったのですね。行動パターンが変わったわけだ」
     前から。ということは、もっと前から部屋に女を入れていたのだ。
     あまりにも軽率な行いだ。間違いがないとバンジークスには分かるが、他の者からすると明らかに不貞にしか見えないだろう。勘違いされるような行動は、よくないことである。
    「帰る」
     頭の中がぐるぐるしたままノブを回す。開けようとしたドアがまた閉められて、がたがたばたんと音を立てる。
     持久戦に持ち込めば勝てると思ったが、そんな力比べはすぐに終わった。
     ぎゅう。
     ドアから離れた手にきつく抱擁されて、どっきんと心臓が跳ねた。
    「マッサージです……」
    「ぬ???」
    「マッサージです! やましいコトはありません!」
    「昔聞いたことだが、みだらなことをする者はみなそう言うのだと……」
    「やかましい! ああもう座って!」
     マッサージ。体に触れるということ。
     スウェディッシュマッサージなどは確かに知っているがしかし、そういうのは専門の者がやる施術である。そう言って女性の体に触れるのはバンジークス基準ではおおいにアウトだ。
     引きずるように部屋に戻され、椅子に座らされる。
    「はいこう」「ぬわ」
     ぎゅっと肩を指圧され、痛みにうめく。
     熱い手が力加減を調節し、肩の筋肉を上から掴むように揉み始めた。最初は痛かったが、ぐっぐっとほぐされるうちに、じんわりと心地よさが広がってくる。
    「…………」
    「ああ、やはり凝っている。使用人のみんなはもっと硬い肩をしていましてね。時々やったり教えたりしてたんですよ。主に男連中に、カードで負けたときとかに」
    「男に」
    「ええ。そしたらある日メイドのメドニーが、教えてくれと頼んできて。コックの恋人がいつも肩が痛いと言っているそうで。初めは断りましたが、どうしてもと泣かれて……。こっそり稽古をつけることにしたのですよ。隠れていたのは外聞のためもありますが、全員からやってくれとか教えてくれとか頼まれると困るので。さすがに本業に障る」
     背中側まで押されて、確かに凝り固まった筋肉の存在を感じる。当たり前故に気づかなかった体の重みが、ちょうどいい指圧で緩んでいく。
    「……初めてされるが、きっと上手いのだろう。こんな特技があったのか」
    「故郷では剣を習っていましたが、そこの道場のご隠居が骨つぎ――切らない外科医のような仕事もやっていまして。ついでに骨と筋肉の構造を踏まえたマッサージも叩きこまれたのです。脱臼したときなんかに自分で治せるようにと。あと爺さんの腰痛対策に毎週やらされて……小遣い稼ぎになったのでいいですけど」
     亜双義は、いや己もだが、過去の話はそうそうしない。初めて聞くエピソードだった。
     まっすぐな髪の男児が老人にしごかれ、反発するが可愛がられている……そんな情景が目に浮かぶようだ。
     腕の付け根を押さえられ、初めて感じる心地いい痛みに呻く。
    「ン……、メイド長もか」
    「たまに腰痛があるそうで。メドニーから聞いた、叱らないから教えてくれと頼まれましてね。腰痛に効くツボ――ええと、押すと健康にいいところを教え、配偶者に押してもらうようにと絵まで描いて渡しましたよ。ひどいなら医者にかかるべきだが、まだ大丈夫そうだ」
    「そう、か」
     首をぐっと押され、息が深くなる。筋を伸ばすようにさすられて、確かに名手であると認めざるを得ない。
    「首が特に凝っている。爺さんの受け売りですが、そういう患者は気鬱が多いらしい。悩むのもほどほどにしてください」
    「ぐ…………」
     反論は難しかった。
     しばらく首を揉まれ、頭が揺れる。疲れるだろうしそろそろと思っても、初めて味わう手技に体の方がすっかり骨抜きにされていた。血の巡りがよくなったのか、体が温かい。客間から出てきた二人が顔を赤らめていた理由が、遅れて分かった。
     ふわふわ包むような眠気が増して、瞼がとろりと重くなる。
    「もっとほぐした方がいいですね。こちらに」
    「ん……」
     手を引かれて起こされて、部屋の奥に誘導される。柔らかなベッドに背中がついて、心地よさのままに目を閉じた。
    「………………だから…………のに……」
     何か聞こえた気がしたが、眠気の方が強い。深く息をして、うとうとと眠気に身を任せ――ねろりと唇を舐められ、一気に覚めた。
    「んぶッ ア、んむうううぅ……! ン、っぷぁ、あそーぎ、待、んふぅう……っ!」
     抗議が口腔に飲み込まれ、先ほどとは種類の異なる快感が体を包む。柔らかな舌がねっとりと絡みつき、粘膜をなぞってくる。重力に従って落ちてくる唾液の行き場が他になくて、ごくりと音をたてて飲みこむのが、なんだかひどくいやらしい。
     覚えたばかりの深いキスをされ、体が火照っていた。
     ひどく長く感じられた蹂躙が終わり、青年はやっと体を起こす。逆光の中、欲情した顔がじっとこちらを見下ろしている。濡れて光った唇がひどく淫靡だ。
     見慣れぬ天井に、かすかに亜双義の匂いがするベッド。
     そういえば、この客間でこういうことをするのは初めてだった。いつも亜双義が己の寝室にやってくるからだ。急に指先がむずむずして落ち着かなくなる。
    「やはり、マッサージにかこつけてみだらなことを……」
    「貴方だけです」
     むっとしたような声が降ってくる。
    「今後、スパとか行ってもマッサージ師は雇わなくてよろしい。全部オレがやるので」
    「それは……どうかと思うが」
    「今みたいにされたらアッサリと抱かれてしまうでしょうが! ちょろすぎる! オレもどうかと思いましたがね、やってみたらあまりにも簡単だったのでびっくりしてるんですよ! ドードー鳥ってこんな感じに絶滅したのか、ああ見なくても想像できるぞありありと!」
     亜双義は頭を抱えてぶんぶんと振る。失礼がすぎる想像だった。
    「どこぞのマッサージ師においそれと気を許すはずもない。貴公だからこそ安心して身を任せたのに、何たる無礼」
    「へ……」
    「素晴らしい手技には礼を言う。見事であった。――このまま何もしないなら寝室に戻るぞ」
    「え?」
    「いいのか?」
    「ほへ……?」
     数秒目を丸くして固まっていた亜双義だったが、信じられないほどの大声で「する!!!!!」と返したので流石に叱った。

     ちゅ、ちゅ、と音を立てて首に口づけられて、ぞわぞわと体が疼く。
     服はすべて脱がない。性器に触れない。そんな、性交の真似事は不毛な行為と分かっていても、せずにはいられないのは何故だろう。
     歯を軽くたてられて、びくりと肩が跳ねる。噛まれない。いつも亜双義は甘噛みだけして歯型をつけるまではしない。わきまえている。
    「ッ、ん……」
     分かっているのに、急所に触れた硬い刺激で体が勝手に身構えてしまう。十回甘噛みが続いても、十一回目は血が出るまで噛まれるのではないかと、そう思ってしまう。
     甘噛みして、唾液を塗り付けるように舐めて、また甘噛みする。
     欲求不満の猟犬のようだ。多分本当は、思いっきり歯をたてたいのではないかと思う。根拠はない。
    「噛む、か?」
     頭を抱えるようにして囁く。望むなら、応えてもいいと思った。
    「…………………………痛い思いをさせたいワケではないので。ああ、マッサージ屋を雇うなら、その前に全身噛んでおきましょうか」
    「オイルでも染みそうだな」
     冗談だろうが、一割は本気の響きを含んでいたのが怖かった。こんな大男に欲情する者など、倫敦でただ一人しかいないというのに。
     ベッドに手をつき、身を起こした青年は上機嫌だった。乱れた髪をとかされる。
    「貴君は嫌がるだろうが、年上の恋人から嫉妬されるのも悪くない経験だった」
    「していない。不貞は疑わなかった」
    「オレのことで悩んでくれたでしょう?」
    「……………………」
     イエスともノーとも言えなかった。なんとなく目を合わせたくなくて枕に顔を埋めると、不意に亜双義のにおいがして動揺した。
    「わ、私は監督者の責務を果たそうとしただけだ。勘違いしないでいただきたいっ」
    「わざと言ってます?????」
     は~、と亜双義は大げさに脱力して見せた。よく分からないが不敬な態度だ。
     覆いかぶさってきた青年を押し、横に転がした。何の気なしに肩に触れて、衝撃走る。
    「柔らかい……」
     肩が硬くなるという現象はつい先ほど認識したが、亜双義の僧帽筋は子供のような弾力を保っていた。同じ力で押し比べ、己のものと硬度がまったく違うのを知る。
    「なんと……こんなに感触が違うのか……」
    「毎日の鍛錬の成果です」
    「私もトレーニングはしておるが」
    「体質もありますけどね。まさか胸の重みで……? いや……」
     真剣な顔で胸筋を揉まれ、複雑な心境になる。ご婦人ではあるまいし、肩への負担となるはずもない。
     シャツごしに胸を掴まれたぷたぷ揺らされ、はっと思い至ることがあった。
     この仮説が正しければ、今まで不可解だった行動の謎が全て説明できる。
     これだったのだ。
     リアルのアレではない、紙に印字された大胆にして怜悧なシャーロック・ホームズも、きっとこのような、稲妻のごときひらめきを得るのだろう。
    「アソーギ、分かったことがある……!」
    「はあ」
    「乳首もよく揉むと健康にいいのだな? だから貴公はことあるごとに刺激を加えようとして、」
     大きく見開かれた目が揺れて、やがてマットレスに突っ伏して肩を盛大に震わせる。
    「ふっ、くくく…………ムリだ、ぶわっははははははははははは! ひーっ」
     泣くほど大笑いした亜双義はしばし呼吸困難に陥り、バンジークスはいたく気分を害したのだった。
     
     
     口止めしたとはいえ、倫敦っ子にそんなものは意味をなさない。
     後日、亜双義の元には東洋の神秘、いや摩訶不思議な妖術を体験したいという者が押し寄せ、由々しき事態となってしまった。
     一人ずつに教えるのは効率が悪いと、亜双義はアイリスたちの手を借り、半ばキレながらツボの解説本を出版した。
     本というよりは薄いパンフレットのようなそれは口コミで効果が広まり、労働に従事する庶民たちの間に健康ブームを引き起こした。海賊版がごまんと出たので大儲けとはいかなかったが、貧乏留学生だった亜双義にとって、思わぬ貯蓄ができる結果となった。
     余談はまだ終わらない。
     皆のすすめで、亜双義は故郷に手紙と土産を贈ることにした。成歩堂と御琴羽家には茶葉と菓子と本を、道場には酒と干し肉を。
     バンジークスもそれぞれに贈り物を追加し、腰が悪いという老師には、歩行の助けになるようにとステッキを贈った。できるだけ地味なものにしたが、あくまで貴族の目からの「地味」である。
     鷲の頭を模したいかつい杖は異様な迫力を放ち、これは魔除けにいいぞと玄関に飾られた。なんかヤバイ杖があるらしいと見物客が来るようになり、「ヤバイ骨つぎ屋さん」は繁盛したという。
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    sikosyabu

    DONE③仮面舞踏会での事件

    ※②以降は以下の要素が含まれますが配慮して書いており、恋愛・性描写は弟子バロのみです。
    ・ヴォル卿とバロの接触(恋愛要素なし)
    ・薬物乱用についての否定的な描写

    完結しました
    https://www.pixiv.net/novel/series/11191308
    【弟子バロ】なかなか抱けないけど最後には抱ける話③ 人が多い。つまりは容疑者も被害者も多くなるということだ。バンジークスは辺りを見回し、重々しい溜息をついた。
     シャンデリアに照らされた大広間は、仮面をつけた貴族で溢れている。限られた者しか招待されぬアセンブリールームはとうに廃れ、公共のダンスホールは未だ野卑だ。
     羽目を外したいが、しかし参加したことが恥になるような会には行けない。そんな[[rb:上流階級 > アッパークラス]] にとって、皇太子もおこなったホテルでの夜会はぴったりだったのだろう。社交シーズンの最後ということもあって、個人の邸宅には到底収まりきらない規模になっていた。派手好きのフォーサム卿らしい。
     ヴェネチアンマスクをつけるのは久しぶりだった。享楽的な宴にはまず縁がない。潜入捜査ということで打ち合わせの通り服の色を明るくし、221B謹製の薬で髪を金に染めてみたが、はたして変装になるのだろうか。
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    sikosyabu

    DONE舌を入れたい弟子×色々な鎖に縛られているバンジークス
    前回の続きで、ミリ進展した話。次のえっち話までできたらピクシブにアップ予定。

    ※現代のジェンダー・恋愛・人権意識から見ると違和感のある描写があります
    ※実在の法への言及があります。HAPPYな原作ゲームからするとこんな考慮絶対いらないのですが、やりたいのであえてリアルに寄せて葛藤を強めています。
    【弟子バロ】アラゴナイトの内側、あるいは半年かけて舌を入れる話 中央刑事裁判所の死神は黒鉄でできている。いや、あの冷徹さは流氷から削り出されたというにふさわしい。いやいや私は確かに目撃した。彼は怪我をするたびマダム・ローザイクに修理をしてもらっている蝋人形である。
     仕事で八年前の雑誌を見る機会があった。議員の汚職を告発しようとした記者を探してのことだったが、途中で目に飛び込んできたのが、死神の正体という見出しの低俗な記事だった。
     黒鉄か氷か蝋細工か。
     なんともまあ、愚にもつかない議論である。
     死神と呼ばれた男の最も近くにいる人間として、亜双義はその答えを知っていた。
     ――どんな人間も、その内側は柔らかくて温かくて湿っている。
     それはバロック・バンジークス卿とて例外ではない。初めて口内に舌を侵入させたときに、しっかり確かめた。驚いて閉じられた顎によりちょっぴり血の味もついてきたのは、告白から数か月経った春のことだった。
    9463

    sikosyabu

    DONE②噂と嫉妬とダンス、情緒不安定な二人

    ※②③④には以下の要素が含まれますが配慮して書いており、恋愛・性描写は弟子バロのみです。
    ・ヴォル卿とバロの接触(恋愛要素なし)
    ・一方的なモブ→バロ要素(犯罪あり)
    ・バロの被害やトラウマ描写(過呼吸)
    ・少年への性犯罪についての否定的な言及
    ・薬物乱用についての否定的な描写

    ①ちくび
    ②不穏&ダンス←これ
    ③仮面舞踏会
    ④きもちいいえっち※R18
    【弟子バロ】なかなか抱けないけど最後には抱ける話② 三日後、亜双義はバンジークスに同伴し、倫敦郊外の宮殿かと見まごう侯爵家を訪ねていた。貴族社会は上下社会。相談事でも上の者からの頼み事ならば、下の者が出向くのが筋らしい。
     荘厳な空間を抜けて使用人に案内されたのは、男性客をもてなす間、書斎であった。ぎっしりと本に囲まれた空間は、どこか古い、知の地層というようなにおいがした。
    「よく来てくれた、バンジークス卿」
     はしばみ色の髪を神経質に分け、片眼鏡をつけた壮年の紳士。模範的な貴族の風体であり、微笑を浮かべているがどこか冷たい抜け目なさがある。それがオスティア卿の印象であった。
     仰々しい挨拶と紹介にあずかりながら、亜双義は油断なく男を観察した。会うのは初めてだが、名前は知っている。彼から師へは、何度か晩餐会や狩り、[[rb:撞球 > ビリヤード]] へ招待する手紙が送られていたのだ。もちろん逐一手紙をあらためているわけではないので、実際にはもっと来ていただろう。
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