消失 静まり返った村を歩く。小さいながらも活気に溢れていた様子も今は何処にも無く、流行り病に侵された人間の嘆く声だけが細く聞こえてくるだけだ。そして、この村は消える。病を齎した長雨が、彼等に最期を運んでくるのだ。
村の中心にあたる道を歩いていると、一軒の家の前で男が一人蹲っていた。側に水桶があるのを見るに、何度か動く体に鞭打って病人の為に水を汲みに行こうとした、と言ったところだろうか。どうやら家を出た時点で彼自身も力尽きてしまったらしく、か細い息をしながらなんとか生きている。
「誰、だ……」
男がゆっくりと顔を上げて私を見たが、私は答えない。答える義理がそもそも無い。それでも男は見慣れぬ私の風体に旅人だと思ったのか、距離を取るように家の壁にもたれ掛かった。
2486