パラレルワールドに生きる君へ紫木一姫は少女であった。
いまどき何処にでもいるような、極普通の特別目立つ事のない容姿を持つ少女。
唯一つ いや、幾つか違う事があるとすれば、彼女の着ている服があの有名な『澄百合学園』の制服であり、何より彼女が戦闘能力を持つ事であろう。
【澄百合学園】
京都の名門女子進学校にして上流階級専門学校。偏差値と門地門閥が重視される「特権階級養成学校」。だがその実態は四神一鏡専属傭兵養成学校であり、生徒からは「首吊高校」と呼ばれている。卒業者の多くは上位機関であり日本のER3と言われる「神理楽(ルール)」に進学する
紫木一姫は病蜘蛛(ジグザグ)の弟子であった。
彼女の糸は意図を切る。曲絃糸の遣い手である。
「危険信号(シグナルイエロー)」とも呼ばれる彼女は、自らの学校脱出の際に人類最強と対峙し、負けた結果
己の記憶の一部を失った。
彼女はその後、新たに師と仰ぐ戯言遣い(本名は誰も分からない)の住む骨董屋アパートへと移り住んだ。
その数ヵ月後、彼女はとある廃病院で思いもよらぬ形で命を落とす。
始まりは師の面倒事へと同行したことである。
その廃病院では、かつて不老不死の研究がされていて、円 朽葉は不老不死の少女であった。
しかし宿泊した翌朝、戯言遣い以外の人間は全て死んでいた。-否 殺されていたのだ。
研究者も不老不死も名探偵も…勿論危険信号も殺されていた。
ただ違ったのは、彼女の死体の周りに散らばった鋭いワイヤーがあったことだろう。
戦いの後が生々しく残る中庭は、地面が抉れ 木はすっぱりと切れていた。
ーそして、殺された少女 紫木一姫は今、『紫木一姫』と対峙している
「はじめましてです。『私』さん」
「はじめましてです。『私』さん」
「姫ちゃんは紫木一姫っていいます。」
「姫ちゃんも紫木一姫っていいます。」
「ややこしいですね」
「ややこしいですね」
クスクス、と二人は同じように 鏡のようにわらった。
「姫ちゃんは殺されました」
「姫ちゃんは殺しました」
「皆殺されちゃいました」
「皆殺しちゃいました」
クスクスとまたわらって、ピタリとそれをやめる。
「ねぇ『私』そちらは楽しいですか?」
「ねぇ『私』そちらは楽しかったですか?」
「せーので言いましょうか」
「せーので言いましょう」
「「せーの」」
「「 」」
そうして顔を見合わせて、また二人でわらった。泣きそうに、笑っていた。
-------パラレルワールドに生きる君へ