【夏五】何でもない日【祓本】 ドアを開けてすぐ、目を突き刺すような光に右手を翳す。真っ暗な塒から久しぶりに外に出た熊はこんな気分だろうか。昇ったばかりの朝陽を遮るものはほとんどない。正面に似た形の木が3本並んでいるくらいで、その向こう側に小さな湖がある。しかし、眩しくはあるが不快ではない。
玄関と呼ぶには小さなドアから続くウッドデッキに出て、大きく伸びをする。10月下旬、さすがに半袖では寒い。
柔らかな日の光。頬を撫でる風。色づき始めている木の葉や草花。どこかから聞こえてくる鳥の囀り―――ここには、都会のような煩わしさは存在しない。
空は雲一つない青空。昨日もそうだった。日頃の行いがいいからだろ、と一緒に散歩をしながら笑えるほどには復活していた相方に、内心ホッとしていた。その相方はまだ、ベッドの上でぐっすり眠っている。
3990