雀舌、十四歳の春。
勤める遊郭の庭先、桜の花が咲き乱れるそこで、彼はひとりの子どもの世話を命じられた。
面倒だという思いが強く、嫌だと言ってしまいたいのを雀舌は必死に我慢した。遊郭の中庭の中央とそびえる大きな桜の木の影に隠れる子どもに近づけば、彼女はふくふくとした丸い頬を大きなぬいぐるみに押し付け、不安そうに立っていた。
薄桃色に染まった血色のよい頬、ぷるりと潤いに満ちたさくらんぼのような唇。飢えを知らない子どもの様子に雀舌の胸がぎしりと軋む。これは雀舌の生まれからくる醜い嫉妬であったのだが、彼女の被ったフードから覗く亜麻色の髪がまたたおやかで、コシがある様に内心舌打ちをする。
目元を布で隠した彼女は雀舌の足音に驚き、肩をびくりと揺らして、両の手を伸ばし空をさ迷わせながら、たどたどしい歩みを見せた。
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