お土産の軽さ◆プロローグ
「八重宮司様」
春、夕方の花見坂で神子は呼び止められた。振り返るといくつも酒を提げた九条裟羅が立っている。
「おやおや、これは裟羅殿。休暇から戻られたのか」
「はい。この度はお世話になりました。お陰様で戦法の真髄もわずかながら掴めました。ありがとうございます」
律儀にお礼をする裟羅に、神子は吹き出しそうになった。
先日から裟羅は休暇を取りモンドへ旅行していた。天領奉行の九条裟羅が休暇をとりモンドまで旅行する――稲妻随一の仕事人間のバカンスは、稲妻城下で噂になり、その目的など大いに推測が飛び交った。しかし神子はその理由を知っている。というよりその休暇を勧めたのが、ほかならぬ神子であった。
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