ゼノはこの部屋を包む気体に意識が溶けてしまいそうだと思った。濃厚な薔薇の香りとチョコレートの匂いが混ざって、つけすぎた香水のように甘ったるく脳血管の端までその香りに浸されているような気分になる。
大人の男二人で座ると窮屈なソファに、さらに窮屈なことにみっしりと横たわっている。ゼノは後ろからスタンリーにしっかりと抱きしめられていて身動きが取れずにいた。
二月十四日バレンタインデー。二人でバラを買ってきて、二人でチョコと料理を作り楽しく食事をとって、デザートにそのチョコを食べながら映画を観て、夜はベッドで一緒に、という過ごし方がいつの間にか毎年恒例になっていた。
今年も途中までは例年通りだったのだが、チョコに入れようとしていたブランデーを飲みたいとスタンリーが言い出した。ちょうどチョコレートの湯煎をしていたところだったので、ゼノは温めてスタンリーに差し出した。そうしたら思いの外酔いがまわったようで、スタンリーはゼノを引っ掴んでソファになだれ込んでしまったのだった。
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