光のお隣さん/第一話 ぎりぎりまで悩んだが、やはり、提灯はなくして正解だった。すっきりとした軒下を、実に伸びやかな気持ちで見上げる。
秋の晴天、金曜日。夕方と呼ぶには少々早い、まだ陽の高い昼下がり。足場やら保護シートやらをようやく除けられた我が店は、小さいながらも一国一城と呼ぶに足る出来栄えだった。未だチョークを引かれていないメニューボードの暗緑が、白いばかりのコンクリートの足許を引き締めている。暖簾は深い小豆色。それ自体は珍しくもないので、染めにはこだわった。刻み込まれた店名は、安かろう悪かろうのプリントものとは、少なくとも自分の目に映る限りでは、一線を画している。これならインスタでよくない方向に論われることはあるまい。多分。最近は呑み屋の客ですらインスタをやっているから怖い。
2982