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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    アキデン♀の現パロ小説。
    注)デ先天女体化。
    先生と生徒。保護者と被保護者。転生。

    アシンメトリー・メモリーズ 7前世で『怖気づいて』から、アキの心はずっと迷いに揺れている。
    信念と効率だけに基づいて行動を決められていた時は、ある意味楽だったように思う。

    アキは自己矛盾に満ちた歪な心を抱えながら、大きなダイヤモンドのついた指輪をそっと撫でた。

    この世で一等大切な存在のためだけに、作った指輪。
    アキの重たすぎる恋心が、全部詰まったそれ。

    宝石の煌めきを見ながら、アキは――今世で初めてあのアレキサンドライトの瞳を見た時のことを、昨日の出来事のように思い出していた。


    ♦︎♢♦︎


    アキが前世を思い出したのは、岸辺が会いに来た時だった。

    「お前、覚えてるか」

    感情のこもらない声でぽつりと言われ、15歳のアキは混乱を抱えながらも、何とか答えた。

    「……今、思い出しました」
    「チッ………………余計なことしたか」

    岸部は身を翻そうとしたが、アキはそれを止めた。

    「思い出させたからには、協力してください」
    「………………やっぱ、そうくるか…………」

    岸部は一口酒を煽ってから、ため息をついた。アキがその次に放つ言葉を、もう予想していたのだろう。

    「デンジとパワーを保護します。俺はまだ子供で、力がない。金は必ず返しますから、今は助けてください」


    アキはすぐに動き出した。記憶が完全に戻るまではしばらく意識の混濁が見られたが、そんなことに構っている場合ではなかった。
    岸辺は今世も公安で働いており、色々な方面に顔が利いた。その力とお金さえ借りれば、できないことの方が少なかったのだ。

    パワーには前世の記憶があったので、とても話が早かった。彼女は孤児で、目立つ容姿だったためすぐに見つかった。
    開口一番に「迎えにくるのが遅いわチョンマゲ!」と言われたのには納得がいかなかったが、信頼できる養護施設を探してそこへ預けた。
    この世界は悪魔がおらず、前世ほど治安は悪くないが、孤児には厳しい世界である。養護施設には岸辺の力を借りて話を通し、かかった費用は出世払いで、岸辺に返済していくことになった。

    デンジが女性に転生していたことは、驚きだった。
    しかも彼女には前世の記憶がなく、見つけ出して保護するのに2年もの時間を要した。
    役所の人間に話を聞けば、彼女は幼い頃からホームレスをしてすっかり人間不信になり、どうやら男性に対して特に強い警戒心を抱いているようだった。だからアキは直接姿を見せず、施設の女性職員に手紙を託して説得に向かってもらった。

    本当は。
    デンジが見つかった時、すぐにでも会いに行きたかった。

    男性に対して怯えているということは、何かトラウマになるような、辛い経験をしたに違いない。
    抱き締めて、もう大丈夫だと言ってやりたかった。
    俺が守るからと言ってやりたかった。

    だってアキとデンジは――前世で、恋人の関係にあったのである。

    前世、アキは寿命が短く、酷い死に方をすることが既に判明していた。だから二人は、最後までプラトニックな関係を保っていた。
    でもアキにとって、それは初めての本気の「恋」であった。多分、デンジにとってもそうだったのだろうと思う。あの時二人は間違いなく、強く想いあっていた。
    前世、パワーのいる時に、隠れてそっと絡ませていた指と掌の感触。生まれ変わった今でも、それをはっきりと覚えている。そのくらい、アキの想いは深かった。

    今世で保護したデンジが自分の手紙を喜んでいたと聞いたので、アキは週に一度、手紙を送り続けた。自分でもユーモアのある方ではないとわかっているため、話題選びには随分苦心した。けれど幼いデンジに少しでも喜んで欲しくて、日常の些細な出来事や面白かったことを見つけては、一心に書き綴った。するとやがて、デンジからも一言ずつ返事が返ってくるようになった。前世で文字の読み書きを教えてやった時を思い出す、歪でダイナミックな文字で書かれた返事。アキはそれを見て少し笑いながら、涙が滲むのを感じた。デンジがこれを一生懸命に書いたのだと思ったら、それだけで愛しくて仕方がなかったのである。
    アキは今世のデンジを――女性として生まれたデンジを直接見たことは一度もなかったが、ひとめで好きになる自信があった。

    22歳で大学を出て教職の免許を取った頃、デンジのいる施設の職員から気になる話を聞いた。彼女がどうやら虐めに合っているようだと言うのだ。アキは彼女を迎えに行くのを大幅に早めることにし、慌てて準備をした。
    本当はもっと仕事が安定して、デンジをしっかり支えられるようになってから迎えに行くつもりだった。少なくともデンジが18歳になり、自分のことをきちんと判断できる年齢になってから、アキと共に暮らすかどうかを問いたかったのだ。

    アキが迎えに行った時、デンジは酷い怪我をしてゴミに埋もれていた。皮肉にも、前世の初対面で自分がデンジに行った酷い行為を、彷彿とさせる情景であった。
    彼女が男性に怯えていると言うことも忘れ、アキは怒った。
    何故、黙っていたのかと。
    何故、自分を頼らなかったのかと。
    後から考えれば、ひどく見当違いな怒りである。彼女が自分に会うのは、初めてだったと言うのに。

    そうして助け起こしたデンジは、前世よりもずっとずっと華奢だった。ほっそりした女性の手がアキの手を握り、その顔に陽の光が差し込んだ瞬間をはっきりと覚えている。

    彼女は、美しかった。
    何よりその、そのアレキサンドライトみたいな赤い瞳が。
    酷い環境にあってもなお輝く、純粋で活力に満ちた双眸が、一際美しかった。

    デンジの手を取ってその瞳を見た瞬間、アキは二度目の恋に落ちていた。


    アキは葛藤した。
    相手はまだ未成年、それも16歳の、いたいけな女の子であったからだ。デンジは男のふりをして生きていたようだが、彼女はどこからどう見ても、まだ幼い少女であった。
    しかも彼女は前世の記憶を持たず、これからいくらでも自由に生きられる可能性を持っていた。前世でデンジを手酷く傷つけ、置いていった自分が縛り付ける権利はない。アキはそう考えた。

    だからアキは――常に保護者としての顔を崩さず、薄皮のような壁を張ってデンジに接するようにした。しかし、それは非常に苦難の道のりであった。

    第一に困ったことは、デンジが初めから真っ直ぐな好意を向けてきたことだ。

    前世で男だったデンジは女好きで、アキを意識するまでに相当な時間がかかったし、アキを好きだと受け入れるまでにもかなりの時間を要した。それはアキの方とて、同じことであった。しかしデンジは前世でも、一旦アキを好きだと認めてしまえば、どこまでもストレートで一途で、健気であった。

    それが今世では、そもそも「性別」という障害がなかったのだ。
    その分デンジは今回、すぐにアキへの好意を示すようになった。デンジは基本的に単純で、隠し事に向いていない。とても顔に出やすく、感情表現がストレートである。そういうところは、例え女性になったとて変わらなかった。一途で健気な愛情を真っ直ぐに向けてくるデンジを見ながら知らん振りをし、壁を作り続けるのは、とても苦しかった。本当は可愛くて、可愛くて仕方がなくて、すぐにでも抱き締めて甘やかしたかった。

    しかし、アキは自戒した。デンジのこの恋は、刷り込みのようなものだと。これまで優しくしてもらった人間が少な過ぎたせいで、自分しか見えていないだけなのだと。
    彼女の可能性を潰してはいけないと、アキは必死に自分に言い聞かせたのだ。

    第二に困ったことは、女性になったデンジがとびきりに可愛かったことだ。

    いや、彼女が例えどんな外見でもアキは可愛いと感じていた自信があるが、惚れた欲目を除いたとしても、デンジは可愛かった。
    三白眼気味で少し吊っている、大きなアレキサンドライトの瞳。つんとした小さな鼻に、桜色のまろい頬。薄桃色の小ぶりな唇はいつだって美味しそうで、ギザギザの歯も愛嬌でしかなかった。小柄でほっそりして、でも女性らしい丸みを帯びた身体。綺麗にのびた細い手足をしているのに、本人にはスタイルの良い自覚がまるでなかった。どうやらトラウマがあるようで、自分のことをトリガラでまな板だと断言して憚らないのだ。しかし、やわらかそうな胸だってそれなりにあった。

    その上デンジには自分が可愛いという自覚がなく、とにかく無防備だった。
    アキのTシャツを一枚だけ羽織って起きて来た時など、すぐさまその胸元にむしゃぶりついてやろうかと、一瞬凶暴な考えが浮かんだほどだ。デンジが無防備な姿を晒すたび、アキはいつも頭の中で素数を数えたり、円周率を唱える羽目になった。煩悩に堪える日々は、いっそ悟りを開そうなほど、ただひたすらに苦行であった。

    そんな二つの事情があったため、アキはいつもギリギリのところで理性を保っていたのである。
    未成年のデンジを法的に守るための方法を考え、悩んだ末に籍を入れようと言った時が一番危なかった。途端に首筋まで真っ赤になった姿と、書類上のものだと行った時のしょんぼりした様子。あの衝撃的な愛らしさは、今でも忘れられない。

    アキは同時に、苛烈な嫉妬にも悩まされた。
    学校で吉田と仲良くする姿には、いつだって焦燥と苛立ちを覚えていた。直接聞いてもはぐらかされたが、吉田ヒロフミにはどうやら前世の記憶があるらしく、いつもデンジの周りをうろちょろしていたのである。
    正直アキはいつも、気が気じゃなかった。自分でデンジから距離を取っているくせに、身勝手で矛盾に満ちた感情だとはわかっている。
    同級生の吉田と並ぶ姿は、はっきり言ってお似合いだった。自分よりあいつの方が相応しいと言い聞かせ、アキは何とか自分の気持ちを抑えようと試みた。タバコの本数が増え、前世の記憶を持つ姫野に愚痴を言う回数が増えていった。今世さっさとアキに見切りをつけ、仲の良い恋人を作った姫野は、毎度呆れながらそれを聞いてくれた。

    誕生日プレゼントに自分と揃いのピアスを選んでしまったのには、自分でも呆れ果てて頭を抱えてしまった。黒いオニキスのついたシンプルなピアスは、アキが付けているのと全く同じもの。
    ――これでは、デンジは自分のものだと見せびらかしているようではないか。
    アキはそう思ったが、結局デンジにそれを渡してしまった。自己矛盾が悪化して、ついに手に負えなくなったと感じた瞬間だった。

    アキは自分でも制御しきれないくらい、デンジのことが愛しくて仕方がなかった。
    だから、デンジの真っ直ぐな告白を断ったのは、まさに断腸の思いだった。あからさまに傷ついた瞳をしたデンジを見た時、アキの胸はとうとう張り裂けてしまい、そこからは血が滲み出ていた。

    ――デンジ。
    ずっと好きだ。
    お前だけが好きだ。

    そう叫べたなら、どんなに良かっただろう。

    その晩、アキは机の引き出しからダイヤモンドのついた婚約指輪を取り出し、そっと撫でた。月明かりを受けて輝くダイヤモンドは美しいけれど、やっぱりデンジの瞳の方が何倍も綺麗だと思う。
    婚約指輪は、以前からこっそり用意してしまっていた。もちろん、デンジの指のサイズにぴったり合わせてある。自分でもどうかと思うが、彼女が寝ている隙にそっとサイズを測ったのだ。

    デンジに告白された時、これを渡すかどうか一瞬だけ迷った。それでもアキは――今は、きちんと身を引くことにした。

    ――デンジが成人しても、気持ちが変わらなければ渡そう。

    そう思い、机の引き出しにまたそれを仕舞い込んだ。
    アキの重たすぎる恋心は、その質量をどんどん増していく。いまやアキ自身の心をも潰しかねないほどに、それは膨らんでいた。


    ♦︎♢♦︎


    アキに振られてからというもの、デンジはみるみるうちに綺麗になっていった。
    まるで、蕾が花開くように。その時が来るのを、待ち侘びていたかのように。

    「女の子が変わるのは、一瞬だねえ」

    姫野が感心して言ったので、アキは苦虫を噛み潰したような顔になった。

    「ありゃすぐに新しい恋をするね。きちんと捕まえておかないからだよ?アキ君」
    「……未成年の生徒に手を出した方が良かったって、そう言うんですか」
    「そうだよ。世の中には社会的正義よりもずっと、大切なもんがあるの」

    姫野はそのエメラルドみたいな目を真っ直ぐにアキに向けて、言い聞かせるように言葉を紡いだ。今世は両目が健在で眼帯をしていないから、目力も二倍ある。

    「アキ君。このままじゃ今にきっと、後悔するよ。手遅れになったら、取り戻せないものもあるんだ」

    姫野のその言葉は、アキの頭にずっとこびりついて離れなかった。


    そうして、あの日がやって来る。
    河原で吉田に抱き締められるデンジを見た瞬間。
    アキは自分の頭に、一気に血が上るのを感じた。

    ――自分で、デンジを突き放したくせに。
    デンジをあんなに、傷つけたくせに。

    理性はそう叫んでいるが、醜い嫉妬に支配された心は止まらなかった。
    しかもデンジは、アキの家に『帰れねえ』と言ったのだ。
    アキは激しく苛立った。

    ――お前の帰る場所は、俺のところじゃないのか。

    そんな風に、心が慟哭どうこくするのが聞こえた。
    頭の中は相反する様々な思いで、もうぐちゃぐちゃだった。

    だからきっと――注意力が、疎かになっていたのだ。
    曲がりなりにも、前世はデビルハンターである。常に周囲に気を配っていたというのに、その時アキは、突っ込んでくるトラックへの反応が遅れた。

    最悪なことに、デンジはアキを庇って――トラックに轢かれたのである。

    「デンジ!デンジ……!!」

    血塗れになった華奢な身体を抱き締めて、アキは泣き叫んだ。

    「どうして!どうしてだよ!お前は、今回は・・・俺のために犠牲になる必要なんてなかった!傷つく必要なんてなかったのに!!」

    泣きじゃくって縋る。次から次へと血が溢れてくるデンジの腹部を、止血しようと必死に押さえた。
    流れ出る赤が止まらない。懐かしい血みどろの世界の匂いに満ちていく。
    アキは絶望で、自分の全身の血の気が引いていくのを感じていた。

    少しするとデンジがかすかに目を開けたので、アキは必死に呼びかけた。

    「デンジ!デンジ、返事しろよ!!死ぬな!俺を置いて死ぬなよ……!!」

    しかしデンジは――ゆっくりと、笑ったのだ。

    まるで、アキを安心させるように。
    それはアキが今まで見た中で、最も美しい笑顔だった。

    「……気にすんなよ、アキ……俺は、アキのためなら、死んでもいー……ちゃんと……好きなひとと、結婚して、幸せになれよ…………」

    アキはとうとう、言葉を失った。

    なんで。
    どうして。
    俺の好きな人なんて、お前以外いるわけないのに。
    俺が幸せになるためには、お前だけが必要なのに。

    アキの泣き声は、まるで獣の咆哮のようにその場にこだました。


    ♦︎♢♦︎


    「デンジ、おはよう。今日は、花を変えようと思って。チューリップ、お前、好きだろ。もうすぐ、春だから。部屋も明るくなって、良いよな」

    アキは優しくデンジに話しかける。
    病室のカーテンを開けると、柔らかい小春の日差しが降り注いだ。

    デンジは今日も目覚めない。
    ただでさえ華奢だった手首が、さらに一回り痩せ細っていた。

    「昔さ、俺が手紙で花の話をしたら、"おれはちゅーりっぷがすき"って返してきただろ。あれは可愛くて、笑ったな」

    アキは笑いかけた。
    デンジが元気な時に、もっとこうして笑いかけてやれば良かった。

    「……デンジ」

    ベッド脇の椅子にゆっくりと座り、その手を握る。今日も心配になってしまうほど、冷たい。
    今にもデンジがそこからいなくなってしまう気がして、アキはいつもそれを必死に温めるのだ。

    「デンジ……好きだよ」

    アキの目から、一筋の涙が溢れた。

    「どうして俺はいつも、手遅れになってから気付くんだろうな。今世ではもう間違えないようにしようって、そう思ってたのにな……」

    デンジの手を持ち上げて、額を擦り付ける。まるで祈るように。

    「好きだ。大好きだよ。ずっと、ずっとお前だけだ。」

    「きちんと伝えなかった俺が、馬鹿だった。罵っていい。嫌ってもいい。それでも、何回でも言うから……だから、」


    「目覚めてくれよ……デンジ。」


    アキはそのまま、透明な涙を次から次へと零した。
    麦穂色の睫毛が僅かに動いたことには、全く気が付かなかった。
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