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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    アキデン連載。タイムスリップしたアがショタデを幸せにして、ショタデが寿命のアを看取る話。二人の出会いと別れと再会。ハピエン。
    ※n番煎じです。

    テセウスの船が行き着く先は 7"早川アキ"が同じ世界に二人存在していた時点で、世界には既に歪みが生じていたのだろう。

    その歪みの結果が、"経験していない"ことを"思い出す"という超常現象だったのだと、アキは考えている。
    その現象は、アキが十六歳の頃から始まった。恐らく、未来から来たもう一人のアキが亡くなったタイミングだ。

    『早川アキが死んだ。』
    『早川アキが生きている。』

    同軸世界で起きた、決定的な二律背反。
    恐らくこのために、もう一人のアキの記憶は行き場を失った。アキが"死んだ"のに"生きている"からだ。その結果彼の記憶が、もともとこの世界にいたアキへと流れ込んできたのではないか。アキはそう推測している。
    時間をかけて流れ込んできた、記憶という名の情報は、この同軸世界線におけるものだけだった。タイムスリップしてきたアキの、元いた世界――未来の世界での記憶は、流れ込んでこなかったのである。"未来"の記憶を"思い出した"ら、それもまた矛盾するからなのであろうか。
    パラドックスだとか、ドッペルゲンガーだとか、色々な事例を調べたが、原因は完全には分からなかった。

    アキははじめて"思い出した"時、とうとう自分の気が狂ったのかと思った。そしてこの記憶が本物だと確信した後は、原因を必死に追求したのだ。けれどそれは途中で諦めたし、次第にどうでも良くなった。
    デンジと暮らした日々の記憶を思い出し始めてから、アキの人生はたくさんの幸福に包まれたからだ。

    「ただいま」と「おかえり」が繰り返される温かい家。
    アキは自分がずっとこれを求めていたのだと、ようやく気がついた。

    デンジとの毎日の記憶は、温かかった。長らく孤独だったアキの心も、少しずつ癒されていった。たくさん傷ついた幼いデンジを幸せにできることが、嬉しかった。純粋で健気な笑顔が、可愛かった。そして何も知らないデンジが色々なことを学び、吸収していく様子を見るのは、楽しかった。
    「おいで」と言って抱き締めた時のぬくもり、ふわふわの髪を撫でた時の感触。アキは全て追体験して、しっかりと憶えている。

    また、自分の死を追体験することで、アキは自分の命の重みをようやく思い知った。
    アキは自分の死について、ずっと軽く考えていた。しかし、デンジがアキの死を受け入れるまで苦悩し、涙し、葛藤する様子を見るのはとても辛かった。自分の死によって大切な人がここまで苦しむのだと、目の当たりにしたのである。
    身体が徐々に動かなくなっていく苦しみを、追体験したことも大きい。悲しむデンジに話しかけたり、抱き締めたり、頭を撫でてやったりできなくなっていく無念さは、言葉にできないものがあった。
    だからアキは死に突っ走ることを止め、生き延びなければならないと強く思うようになった。

    それから、もう一人のアキがもたらした未来の記憶も衝撃的なものだった。
    銃の悪魔の行く末に驚いたのは勿論だが、復讐のためだけに生きた自分がそんな最期を迎えると、一体誰が想像できようか。考えただけでおぞましく、体の震えが止まらなくなった。
    だからアキは、復讐どころではなくなった。自分の進む道を見直さざるを得なくなったのだ。

    加えてもう一つ、アキの生き方を変えた大切なものがある。
    それは、デンジへの恋心だ。
    デンジはアキより五歳年下だったけれど、そんなの関係なかった。アキはデンジに恋をした。

    その笑顔の、純粋さとあどけなさに。
    隠れて泣き腫らした目で笑いかける、気丈さと健気さに。
    アキの手に頭を擦り付ける、いじらしさと慎ましさに。

    次々に、惹かれて止まなかった。
    アキは思い出す記憶の中で、狂おしいほどデンジに恋焦がれるようになった。

    未来から来たアキと自分の一番大きな違いは、ここであろうと思う。
    未来から来たアキは、あくまで自分が元いた世界のデンジを想い続けているようだった。幼いデンジのことも勿論愛していただろうが、それは父親や母親の情に近いものであったように思う。恐らく、恋情ではなかった。
    けれど、自分は――この時代のアキは、この時代のデンジに、間違いなく恋をしたのである。

    アキはデンジに、早く会いたくて堪らなかった。
    いつもそうしていたみたいに、思い切り抱きしめたくて切なかった。
    未来への不確定要素を私情で増やしてはならないと思い、予定より早く会いに行くことは何とか堪えたけれど。本当は、ずっと苦しかった。


    ともかく、"思い出した"ことによって、アキの人生の目標はすっかり変わった。
    一つ、未来を変えて最悪の結末を回避すること。
    二つ、その先をデンジと共に生きること。
    この二つの目標が、アキの新しい軸となったのである。


    予定通り十八でアキは公安に入ったが、その後の筋書きは少しずつ変わっていった。
    まずアキは、マキマの支配を受けなかった。彼女の正体を知っていた影響が大きいのだろう。そして、早々に岸辺と連携した。岸辺もまた、マキマに離反する者であると気付いたからである。強力な味方を得られたのは心強かった。バディの姫野と信頼関係を構築した後は、彼女にも事情を話して協力の約束を取り付けた。彼女の死も、勿論回避したい未来のひとつだ。
    またアキは、自分の寿命を削る契約を悪魔と結ばなかった。その代わり未来の悪魔との契約を望み、面会が叶った。目論見通り、未来の悪魔はイレギュラーなアキの存在を大層面白がった。「未来が真っ二つに分かれているパターンは初めてだ!」と言って、かの悪魔はアキの左目に住む契約を結んだのである。

    アキの前には望む未来と最悪の未来、二つの道が伸びている。
    望む未来を――デンジと生きる未来を掴むため、アキはなんだってやるつもりだった。


    「アキ!!」


    少しアンニュイで艶のある、伸びやかな声が自分を呼ぶ。
    目の前に、成長したデンジがいる。
    身体が動いて、こうして自由に触れられる。
    それがどれだけ幸せなことか、アキはもう知っている。

    もしもデンジがアキのことをまた好きになってくれたら、約束通り、すぐにキスがしたい。

    アキは目の前のデンジを愛し気に見つめた後、そのふわふわの頭を撫でたのであった。


    ♦︎♢♦︎


    「そうだったんだなぁ。アキが寿命削ってなくて、すげぇ安心した……」
    「うん。その辺はもう心配すんな」
    「でもよぉ、経験してないのに思い出すって、気持ち悪くなかったか?」
    「最初はな。でも、徐々に慣れた」

    泣き崩れたデンジが落ち着いた後にあらかたの事情を話すと、彼はすぐに飲み込んだ。幼い時からうすうす思っていたことだが、デンジはやっぱり頭の回転が速い。それに柔軟だ。

    「や、待てよ……あのさあ、この会話って大丈夫か?あれに盗み聴きされたりしねえ?」
    「マキマのことか?ここは聴かれない。あれの監視にも穴があるんだ。ここは、岸辺さんが用意してる安全な場所だ」
    「すげえ!そ〰︎なんだぁ!!」
    「さっきは……冷たくしてごめんな」
    「え?や、いーよお!仕方ねぇじゃん。……やっぱ、マキマの前では仲悪くした方がいい?」
    「一応そう思ってたんだが……無理そうだ。さっきお前を無視すんの、すげえ辛かった」
    「……そ、そっかぁ〰︎」

    デンジはポッと顔を赤らめて、視線を彷徨わせた。わかりやすく照れている。
    可愛いな、と思う気持ちを何とか抑えながら、アキは話を続けた。ここに留まるのがあまりにも長時間になると不自然なので、時間は限られている。

    「ルールを決めておこう。俺たちに面識があることは、隠さない。無理に仲が悪い振りもしない。だけど、"未来"の知識は奴に聴かれない場所でしか話さないこと。家でも話さないように」
    「わかった。未来を知ってるとか、変えようとしてるとかがバレたら、まずいもんな」
    「上出来」

    もう一度、デンジの頭を撫でてやる。朝焼けの瞳がうっとりと蕩ける様子が見たくて、何度もそうしてしまう。

    「アキ……あのなぁ、もうひとつ、聞いてほしい」

    デンジはそのまま頭を俯かせて、静かな声を出した。何のことかすぐにわかって、アキは頷いて耳を澄ませた。だって、デンジのそばにいつもいた存在がいなかったから。

    「俺さぁ、ポチタを……ポチタを守れなかったんだ……」
    「……そうか。俺はやっぱり、早くお前を迎えに行けばよかったのかもしれない……。お前に一人で頑張らせちまって、ごめんな」
    「いや。多分、どーにもできなかったんだと思う。未来のアキも、ポチタのことはあんま知らなかったじゃん」
    「そうだな……。じゃあ……ポチタはここ・・にいるんだな?」

    アキは五本の指先でそっと、デンジの左胸に触れた。デンジは目に涙をためながら、大きく頷いた。アキの青い目からも、一筋の涙が零れ落ちる。
    アキだって、大層ポチタを可愛がっていたのだ。ポチタは優しくて愛情深い、可愛い悪魔だった。

    「俺、ちゃんと未来を変えられんのかな……。ポチタが消えちまってさぁ、自信がなくなったんだ……」
    「これからは、一人でやろうとしなくて良い。俺もいる。協力者だっている」
    「……そっか。そーだな!」
    「困難な道になると思う。どんなに足掻いても、難しいのかもしれない。だけど、俺は未来を変えたい。協力してくれるか?デンジ」
    「当たり前だろ!」

    デンジが力強く答えたので、アキは思わず微笑んだ。
    やはりデンジに会うまでは、地に足がついていないというか、いつもどこか不安だったように思う。デンジが自分のことをどう思うのかも、怖かった。でもデンジは、「アキはアキ」と言いきってくれたのだ。
    これからは一緒にいられる。二人で未来を変えていける。これほど心強いことはない。

    デンジはおもむろに、自分の心臓のあたりをトンと叩いてみせた。

    「俺たちぁ、決めたぜ。俺とポチタはよぉ……もう二度と、アキを死なせねえからな!」

    デンジはにかっと笑った。それはまるで陽だまりみたいな、眩しい笑顔だった。
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