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    Hatimi728

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    Hatimi728

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    バレンタインを書いてないけどホワイトデーを書いた。ロイエド未満の話。エドがちょっと悪い子

    煙草とクッキー「なぁー少尉、タバコって美味いの?」
    「おっ、大将もそういうの気になる年頃か?吸うか〜?」
    ニヤニヤとハボックがエドワードを見下ろす。ハボックは東方司令部の中庭で休憩中だった。エドワードもついてきて、なんとはなしに話していた。
    エドワードは一昨日まで南部におり、泊まっていた宿にロイから「できれば今日帰ってきてくれないか」と言われていた。大方、エドワードの手を借りて何か調べさせるのだろう。アルフォンスは、街の図書館に行っている。
    「パス。俺成長止めるようなことしたくねえし」
    「カタいな〜。俺なんかお前の頃にはもう吸ってたぜ。まぁ大将に吸わしたのバレたら俺が消し炭にされちまうな」
    「はぁ?なんであいつが出てくるんだよここで」
    ハボックはそこでふぅーっと煙を吐き出した。
    「あれでもお前のこと大事にしてんだよ大佐は。わかってやれって」
    ぐりぐり、とエドワードの頭を撫でると案の定、縮む!と怒られた。
    もー、とぶすくれた後、エドワードがあれ、という顔をする。
    「少尉ってさ、誰かから勧められて吸ったワケ?」
    「うーんにゃ、仲間内で自然とだなぁ。俺ん実家、雑貨屋だからくすねてた」
    「犯罪じゃねーか」
    エドワードが半目になる。
    「まぁーでも大人になってから付き合いで吸い始めるヤツも多いからな。特にこんな男所帯だと」
    「へぇ、そうなんだ」
    「まぁタバコ吸うのが休憩になるしな。丁度いいんだよ。で、話作るきっかけに付き合いで吸い出して……ってヤツが多いな」
    「それでニコチン中毒かよ」
    「きびしーなー。でもうちの上司だってちょっとそういうタイプだぜ。まぁ大佐の場合は葉巻のが多いだろうけどな」
    そこまで打てば響くように弾んでいた会話が少し途切れた。エドワードが、少し拗ねたような顔をして、ぽつりと呟いた。
    「……アイツ、吸うんだ」
    「おうよ」
    「少尉だけそういうの知ってんの、なんかムカつく」
    「まぁそういうなや」
    そう言いながら、ハボックは目を半開きにした。土の部分にタバコの吸い殻を落として軍靴の底でぐりぐりと火を消す。吸い殻を拾って紙に包んだ。軍部内で小火騒ぎを起こしたらやっぱり上司に消し炭にされかけるだろうし、吸い殻を残したままなら一般職員から鷹の目に伝わり絶対零度の目で睨まれながら注意勧告が出るだろう。他の司令部ではいざ知らず、中央や東方司令部は結構そう言うところに煩い。
    それにしても、この弟分は口では上司に反発していても、随分と気になっているようだ。これで上司も無意識的にエドワードに惹かれているのだからわからない。マスタング組の中でマスタングを抜いた全員が密かに建てた誓い--エドワードが16歳になるまでは大佐がエドワードに手を出さないように妨害する--というのをますます守らなければならない。
    ただでさえお稚児趣味などという噂を事実にして上司を逮捕や良くて左遷させるのは嫌だった(そして軍部ではその手のことがもみ消すことができるのがもっと問題だった)。どこの誰だか知らないヤツがこう言ったことで問題を起こすのならいざ知らず、上司と弟分という顔見知りーーというよりも大事な人たちが悲しい目に遭うのは嫌だった。
    エドワードが、微妙な顔をして、吸い殻を包んだ紙を貸せ、と言ってきた。ハボックは「自分で捨てるぞ?」と聞き返したが、エドワードはむっつりとした顔で「良いから貸して!俺が捨てておく!」と言った。よからぬことを考えてそうだったが、まぁいいかと、渡しておいた。後々ハボックの今月の給金が減らされるとは知らずに。

    エドワードは軍議から帰ってきたロイにレポートを提出していた。当然ながら今回も空振りで、そのような結果の話をするのは慣れたものではあるが、苦々しくもある。
    「っつーわけで、ここの赤い奇跡ってのは単なる銅の酸化膜によるものだった」
    「そうか。ご苦労だったな」
    いつものように単なる挨拶に過ぎない労いが返ってくる。一度そんなことをアルフォンスに話したら、「兄さんの受け取り方が捻くれてるんだよ!」と怒られた。
    窓から、ふわ、と風が入ってくる。その風はどこか甘かった。
    「どうした鋼の。惚けた顔を晒して」
    「なんだとこの野郎!」
    ぐっと拳を振りかぶると、ロイが降参を示すように両手を上げる。本当はエドワードなんか片手で捻り倒せるくせに、こうやって応じてくるのがいちいち癪に触るのだ。もっと出会った時みたいにーーー。
    「風がきつかったか?すまない、閉めるが」
    「いや、そうじゃなくて、なんか風が柔らかいっていうか、甘いっていうか」
    変なことを言うなこの子は、という顔をされて、途端にエドワードは顔が赤くなる。しかし、その言葉もロイが思い出した言葉でかき消された。
    「あー、春だからじゃないか、それは」
    「あっ、そうか。そうだよな。暫く南部にいたから忘れてた。今3月なんだな」
    「私にはそういうことはさっぱりわからないが、君の生まれはリゼンブールだしそういうことに敏感なんだな」
    なんだか、壊れやすいものを見るような目で微笑まれる。思い出せる黒曜石の目はもっと鋭く光っていて、野心に燃えているか、怒りに燃えているか、冷たくいなすかのどれかだと言うのに、実際に会うとロイの目はいつもこのような普通の、柔らかい黒色なのだ。エドワードはそこに拍子抜けしてしまう。
    旅暮らしということもあって天気や気圧の変化には敏感でもある。ただ、年々そういったことに頓着しないようになっていた。頓着しないようにしていた。俺にはそんな暇はない、という様に。
    「じゃ、俺はこれから資料室に行くから」
    「お茶でもどうだい」
    「野郎と茶ァなんて飲んで何がたのしーんだよ」
    このやり取りもお馴染みのものだった。
    エドワードは退出する際、ロイの見ていない隙をついて、わざと吸い殻の入った包み紙を落とした。

    エドワードはポン!と本の背で頭を殴られた衝撃で我に返った。見上げると、図書室の暗がりの中で一際黒く沈む髪を持つ男がこちらを呆れたような顔で見ている。その目を見て、安心した。
    「本当に君の集中力は賞賛に値するな。私が殴るまで気づかないとは」
    「……痛くねーし、気づくし」
    「当たり前だ。私が君を本気で殴っていたらこれどころでは済まない」
    「へーへー、で、何のよう?」
    そういうと、ロイはまた黒い目を冷たくしてエドワードを見た。
    「エドワード、話があるから執務室まで来なさい」
    エドワードは名前で呼ばれたことに心臓を跳ねさせた。あまりにも自然で、名前で呼ぶな、と叫ぼうにももうロイは資料室のドアを開けていた。エドワードは慌てて本棚に資料を戻す。
    ロイが一度だけエドワードがついてきているか振り返った。

    エドワードはロイの執務室で直立不動にさせられていた。
    「君ね、笑えない冗談はたいがいにしときたまえよ」
    「何のことだよ」
    すっ、とロイが執務机に包み紙を差し出す。エドワードは何も言わなかった。
    「君のものだろう。すぐ気づいたよ」
    「へーへー、すいませんでしたね」
    「そうじゃないだろう!」
    ロイの大声に、びくっ、と反射的に体が震えた。
    「いいか、君の考えていることは大体わかっている。ハボックにも聞いたがな。私の気を引きたくて煙草の吸い殻をここに落としていっただろう」
    その通りだ。少尉の言葉が気になって、わざとこの男の反応を引き出すために執務室の中にタバコの吸い殻の包み紙を落とした。
    「君は、君みたいな子どもがこれを持っていることの危険性を理解していない」
    「何だよ、たかがタバコじゃねーか!」
    「これを私以外が見つけたらどうするつもりだったんだ。ここじゃなくて司令部の違う場所で落としていたらどうするつもりだったんだ」
    はっとしたようにエドワードが目を見開いた。ロイは有無を言わさないとばかりに捲し立てた。
    「君は、君の特殊さを自覚した方がいい。ただでさえ最年少国家錬金術師で妬みやっかみを買いやすいんだ。君にとっては私の気を引くためのただのタバコの吸い殻でも、そうじゃない奴らにとっては素行不良の証拠になる」
    「……もし、本当に俺がタバコ吸ってたら、アンタどうすんだよ」
    「その時は私の目が節穴だったということだな、それに」
    ロイが包み紙をくしゃりと握りつぶす。そしてエドワードの目を改めて真っ直ぐ見た。
    「君はそんな自分の身にならないことはしないさ」
    「……ムカつく」
    「というか、君は成人するまで私が酒も煙草にも触れさせない」
    「へーえ?」
    すでにエドワードは直立不動を解いていた。腕を組み、ロイがどう出るかを伺っている。
    「まぁ、ここは私が実質司令官だからな。目を光らせておくことは容易いよ」
    「すっげえ自信。どこから湧いてくるんだよそれ」
    「実績だよ、ところで」
    ロイが厳しい顔つきになる。エドワードは腕を戻して直立不動に戻ってしまった。
    「君の吸い殻ではないとわかっているとは言え、君がくだらんことをした罰だ。お茶に付き合ってもらうぞ」
    「はぁ!?」
    「君に拒否権はない。そろそろかな」
    ロイが懐中時計をぱちんと開く。時計の針は15時を指していた。折よく、執務室のドアがノックされる。
    「失礼します。大佐、お茶の準備ができました」
    「ーー入りたまえ」
    ホークアイが、お盆の上にティーセットを持ってきていた。いつものマグカップではなく、来客用である。これにはエドワードも慌てた。
    「中尉、それ」
    「エドワード君」
    「は、はい」
    びしっとした声にやはり直立不動になってしまう。
    「ちょっと今回のことはいただけないわね。悪ぶりたいのはわかるけど、ちゃんと出来るようになってから悪ぶりなさい」
    エドワードのアンテナがしおしおと力をなくした。ここまで直接的に言われるともう返す言葉もない。素直に従うだけだ。ロイにソファにかけるように言われて、ぽすりと座る。
    ホークアイが、手際良くティーポットからカップに紅茶を移していく。赤褐色のそれは、今回エドワードが空振りに終わった調査の銅の酸化した色を思い起こさせた。何となく苦い気持ちになりながら、それを見つめる。
    お茶請けには白い紙ナプキンを敷いた皿に乗ったクッキーが出された。
    「なんでクッキー?貰いもん?」
    エドワードは思わずホークアイに聞いた。すると、彼女は微笑んで言った。
    「大佐に聞いてみたら?」
    思わず、横に座った男の顔を見る。男はそっぽを向いた。
    「君みたいなお子様にはクッキーがお似合いだと言うことだ」
    「なんだと!」
    エドワードが立ち上がりかけたが、ホークアイに優しく諌められた。
    そのホークアイの後ろにある、司令室につながるドア、そこを開けた先にある壁にかけられたカレンダーには、3月14日、そこに大きな丸が付けられていた。
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