懺悔せよ(仮)ああ、解ってたよ。
奴がどうしようもねぇ屑だってことは。
解ってて恋人になった。
じゃあ何を今更?
今更だからだよ。
奴が女の腰に手を回そうが、心中に誘おうが赦してきた。何故かって?
俺が誰よりも太宰に愛されていたからだ。
女に囁く甘い言葉は一晩相手をしてもらいてぇから。
ただそれだけだからだ。
‥‥‥だがどうだ。
今、俺の目線の先には男女が抱き合い‥‥接吻をしてやがる。
太宰、その女とする接吻は気持ちいいか?
なぁ、手前云ったよな?
接吻は惚れた奴にしかしねぇって。
その女は惚れた女だって云いてぇのか?
‥‥だったらその女に手前を呉れてやる。
もう‥‥‥限界だ。
太宰がどんなに女と遊ぼうと、太宰が惚れているのは俺だけだ、そう自分に云い聞かせて何でもない素振りを見せた。
いちいち問い質すなンて女々しい事は出来なかった。男の俺と付き合ってるのに女々しい事云って愛想を尽かされたくなかったからだ。
『中也、愛してる。私は中也さえ傍にいてくれれば他に何も望まないよ』
太宰がよく俺に云ってくれた言葉。
俺だけに囁く愛の言葉。
俺だけ。
‥‥そう、俺だけであって欲しかった。
中也が哀しげに見つめる視線に気付いていた太宰は横目でチラリと中也を見た。
目と目があった。
そして、中也の口元が
『さようなら』
と動く。
「‥‥は?」
「太宰さん?どうしたの?」
急に唇が離れた女は不思議そうに太宰を見上げ「もう一回しよ?」とあざとく誘う。
「え?あ、いや」
太宰は一瞬女の方を向いたが直ぐに中也がいた場所に目を向けた。
だが、既に中也の姿はなかった。
「太宰さん?ねぇ太宰さん」
女の子の甘ったるい声が聴こえた。
だが、今は女の子なんてどうでもいい。
中也は何て云った?
『さようなら』
そう口元が動いた気がした。
女の子とデェトしてる時に中也の視線を感じた。嫉妬している視線だ。中也は女の子と遊ぶ事を咎めない。何でもないフリをするが、内心では嫉妬心が渦巻いている。
あの視線がそれを物語っている。私を欲し、独占欲を剥き出しにしてくるあの視線が私を興奮させるのだ。だから、女の子との遊びがやめられない。もっと、もっと嫉妬して欲しい。私以外目に入らなければいいのに。
だから、中也の視線を浴びながら女の子に接吻したのだ。中也がどんな顔で此方を見てるのか見てやろうとした‥‥んだが。
嫉妬してる顔ではなかった。
全てが終わった様な顔。
そして、あの口の動き。
やってしまった。
私は中也の限界を見誤った。
何時ものお遊びなのに。
やりすぎてしまった。
とにかく、今すぐ中也を追いかけて抱きしめてあげよう。そうすれば大丈夫。
ちょっと拗ねただけ。
きっとそう。
太宰は女の子にやんわりと断りを入れ別れると、急いで中也のセーフハウスに向かった。
もうすぐセーフハウスが見える所まで来た時、太宰の端末が震えた。
太宰は慌てて画面を開く。
『メール 1件』
きっと中也だろうと画面操作していた太宰の手がとまった。
画面に写し出された文字には
『太宰、俺達は終いだ、別れよ。
その女を大事にしてやれ。
今更だけど、俺は手前を選んだことを
後悔してねぇ。ただ、俺が手前の一番
になれなかった、それだけだ。
今使ってるセーフハウスは解約するから
手前の荷物は後で寮に送ってやる。
じゃあな』
「‥‥一番だよ、一番に決まってるじゃないか!莫迦中也!」
太宰は強く握りしめた端末を外套の衣嚢に突っ込むとセーフハウスに向けて走り出した。