【1】師匠の喉仏。「師匠。それって何ですか?痛い?」
「ん?」
モブは とんとん、と自分の首を指差して、「師匠のここ、何か膨らんでます」と首を傾げた。
「モブ。俺はお前と初めて会った時からここは変わってないんだが?何その『今初めて見つけました〜』みたいなの」
「……、初めて気付きました」
「はは、お前らしい。モブはまだ声変わりしてないもんな。これはな、思春期に起こる体の変化のひとつだ。モブもそろそろじゃないか?声変わりと同時にここに喉仏が出来るんだ」
へぇ、そうなんですね、とモブは俺の喉を凝視している。何年も前からあるものなのに珍しそうにしているのが子供らしいというかモブらしいというか。
あんまりじっと見るもんだから、触ってみるか?と聞いてやると ごくり、と息を呑んでモブが頷く。
いやいや、だからこの骨は痛くねぇって。尖っているからそんな痛そうに見えるのか?
恐る恐る腕を伸ばし俺の喉を触るモブ。人差し指、中指、親指で突き出した骨を撫でられている。緊張して強張ったモブの表情がなんだか可笑しい。
俺が くつくつと笑うとそれは喉から振動して触れられている指先からモブにも伝わる。
「な?」
「し、師匠。師匠の喉仏がゴロゴロ言ってて、猫みたいで可愛い。僕、師匠の喉仏が好きかもしれません」
何を言い出すんだ俺の弟子は。
師匠に向かって猫ちゃんはないだろ!喉仏が好きかもとかよく分からない宣言されて呆れている俺の喉をモブは触り続けている。
「お前らまた何やってんだ」
窓の壁からエクボが入ってきて呟いた。