祭り いつもは穏やかな街に笛の音が響く。
今日はキャロの街の収穫祭の日。街のあちこちから賑やかな音が聞こえてくる。多くの人が慌ただしく行き交う路地を、ナナミは一人歩いていた。
「私だって手伝いぐらいできるのになあ」
炊き出しをする女衆の手伝いをしようと張り切って顔を出したが「ナナミはいつものように会場準備を手伝ってあげて欲しい」と体よく追い出され、ブツブツ言いながらも素直に祭りの中心地へと向かっていく。
毎年ナナミは弟と幼なじみと一緒に会場準備を手伝っていた。ゲンカクに鍛えられ年々たくましくなっていく彼らは重要な戦力だ。
会場の中心である櫓が見えてきた。その周りでは男衆が声を上げながら慌ただしく動き回る。毎年変わらぬ光景。だがその中に彼らの姿はない。二人は昨年この街を出ていった。
数ヶ月前一度街に帰ってきた弟と幼なじみは時々知らない男の子に見えた。ナナミの知らない話もたくさんしていた。
街にはいつもと変わらぬ笛の音が響く。
いつも側にいた彼らはいない。
賑やかな喧騒が聞こえる。笑い声が聞こえる。
いつも共に泣き、怒り、笑い合った彼らはここにいない。
幼い頃、二人はよく「おとこのやくそく」をしていた。ナナミには絶対教えてくれない「やくそく」。今もきっと新しい「やくそく」が増えている。
でもそれでいい。
「だって、私はお姉ちゃんだから」
小さくつぶやく。
あなたが帰る場所を守るよ。
ふんっと鼻で小さく息をし、腕まくりをしながらナナミは笑顔を浮かべ、喧騒の中へと消えていった。