悔いはない(芹草) 勝手知ったる草太の部屋。もう自室のように寛ぎ寝転がりながらスマホを見ていた芹澤の頭上から、草太のむすっとした声がかかった。はて、と考えるが怒られる理由が無い。視線で返せば、しょうがないと言わんばかりのため息が聞こえた。
「そこ。お前の頭の上。」
「……ああ」
どうやら芹澤にではなく、本棚に用事があるようだ。くるっと視線を上に、というよりも少し反り気味に動かせば、ぎっしりと収納された本が目に入った。ごろごろしている芹澤と違って調べ物があるらしい草太は、要は芹澤にどいて欲しいらしい。起き上がるのは面倒なので、どうぞ、というように少しだけ背を床にぺったりとつけた。
「……それだとまだ邪魔なんだが。」
「俺のことは気にせずに。」
1792