大人の秘密「俺、風邪引くから、温かくして待っとってなって言ったやん」
「……今日は早く帰るって言った」
やっとの思いで叶えた逢瀬だというのに、俺の恋人は拗ねていた。心当たりはいくつもある。久々に会えたというのに、緊急の仕事が入った。その帰りに市民の悲鳴が聞こえて、さらに仕事が増えた。
「寒いから、早くこっちに来てよ」
ブランケットから覗く素足に唾を飲む。いつの間に環はこんな悪い子に育ってしまったのだろう。テーブルに置かれたボディクリームは、俺が使っている香水と同じブランドのものだ。くれるなら、お揃いの香水がいいと環は拗ねたが、簡単に身につけられるものなんてやりたくなかった。手にとって、足先から、手先から、その白い首筋まで。環には時間をかけてじっくりと、自ずから俺と同じ匂いに包まれて欲しかった。
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