バスタブの人魚 はて、とユウは部屋に入って早々に首を傾げた。手帳にメモした日時と、部屋に置かれた時計の時刻を見比べる。モストロ・ラウンジも閉店した夜更け。やはり間違いはないようだ。
「アズール先輩?居ませんか?」
室内の灯りは窓から差し込む月光のみで薄暗く、しんと静まり返っている。
ユウは今日この時刻、アズールの部屋に呼び出されていた。別に初めてのことではない。几帳面な彼が約束を、しかも自室に呼んだことを忘れるとはあまり考え辛かった。
談話室やラウンジへ探しに行くべきかとユウが考えていると、部屋の一番奥、僅かに開いたドアの向こう側から明かりが漏れていることに気がついた。あの場所はバスルームだ。
何度か借りたこともある。「寮長ともなると部屋にお風呂があるんだ」程度に捉えて、然程気には留めなかった場所だ。水垢ひとつ無いタイルに彼の性格が見て取れた。
4603