ジュンアイ 全国指名手配犯のくせに、自分の複製以外とはあまり人との関係を関係を築いたことがなかったのだろうこの男。
人の気持ちに敏感で、誰にでも与えれる優しさを持つ。
どうしてこんな良い人が敵なのか、この男と話しているとなにを線引きに敵なのか英雄なのかわからなくなる。
―どうしようもなく……。
マスクをかぶっていないと自分が保てないという男はマスクの下が強面な男だと忘れるぐらいマスク姿だと明るいタイプの人間だった。
同時多重人格の彼は自分の本心を言ったあとに他の人格が彼の本心と逆のことをいうことがよくあったが、他人格がいう言葉は彼の本心じゃないと敵連合の人間はわかっていた。
たった数十日一緒に居ただけだというのに俺はこのトゥワイス―分倍河原仁という男に絆されていた。認める。
分倍河原は俺のことを気に入っているのかよく声をかけてきた。
ヒーロー業も兼任しつつも俺が山荘に戻ると七割程の時間は分倍河原と過ごすことが多い。
彼は育ってきた環境のせいなのか、はたまた勉強が元から苦手なのか、本を読んでも頭には入らず、ピンとも来ないらしく、俺に解放軍の成り立ちなどを教えを聞いてきた時は口元が思わず緩んでしまった。
最初の頃は監視対象だけだったのに、今ではそれ以上の想いをこの男に向けている。
―その感情は自覚をしている。
たまたま分倍河原が外で煙草を吸って一服をしているのを見かけた。
煙草を吸っている時はどうやら一つの人格らしい。はたから見ればただただ静かなのだ。
分倍河原は煙草をフィルター近くまで吸うと灰皿に捨て、マスクをまた被りなおした。
「トゥワイスじゃないですかぁ、今日は会議じゃないんです?」
「会議はしてると思うぜ?【してねぇよ!】」
「どうかしました?」
「いやよ、あんまり理解できねぇんだわ、難しいことごちゃごちゃ言われてもよ【全て理解しているぜ】」
「またなにか問題でも?」
「問題はねぇよ【ないのが問題なんだ!】」
「なら俺の部屋きます?」
「ホークスのか? んー、別に行ってもいいぜ【行かねぇよ】」
相変わらずの多重人格の話し方にはもう愛着がでるぐらいで、支離滅裂な会話だったが俺は近くに割り当てられていた部屋に分倍河原を連れ込んだ。
部屋の扉の前にデバイスが取り付けられている羽根を浮かせて分倍河原が入るのを確認すると俺は後ろ手に鍵を閉めた。
鍵を閉める音に気づいていない分倍河原は奥にと進んでいく。
「お前の部屋狭いな【広すぎねぇか】」
「大きな部屋を割り当てられたとしてもヒーロー活動をしなきゃいけなくてあんまりいられませんからね。さてと……」
剛翼で分倍河原と距離を詰めながらも羽根をいくつか飛ばして彼の体を押さえつけた。
彼はいきなりの重さをかけられ、バランスを崩す。床に倒れると目を咄嗟につぶった彼を羽根で受け止めてベッドに運び、俺はそれにマウントを取る形で多いかぶさる。
分倍河原は目を開くとなにがなんだという顔を俺に見せる。
俺は分倍河原のマスクを外してやると、顔は引き攣って俺を見上げている。
「な、なんだよおまえよ! マスクを返せっ、―裂けるッ」
「いやぁ、あなたが本当に良い人なんでね、ちょっと」
「どけよ!【どかなくて良いぜ】」
「ほら、貴方の違う人格はいいって言ってますよ」
「違う、それは俺の本心じゃねぇ【本心だ】」
全身のヒーロースーツというより分倍河原の場合はヴィランスーツか? ってどうやって脱がしたらいいのかはあまりはわからないがこの分倍河原のスーツは首元を触ってやると後ろに見えにくいように細いチャックがあり、俺はそれを下ろした。
分倍河原はドタバタと抵抗を見せるが俺はそれを羽根で押さえつける。
「特別授業ですよ、トゥワイス」
「はぁア?」
「純愛ってなんだと思います?」
「んなの俺がトガちゃんに向けてる感情だろうが【俺は知らねぇよ】
言いにくそうに顔を少し赤くして言った分倍河原に笑いが出る。
十歳以上も離れたまだまだ未成年の女の子に純愛を向けてるという分倍河原がおかしく感じてしまう。
「あはは、俺はね相手をめちゃくちゃにしてやりたい気持ちのことを言うんだと思うんですよ」
「はァ?」
「愛してますよ、トゥワイス……、いや分倍河原仁」
終わり。
大好きなバンドの曲の一つ。このフレーズがとっても好きで頭からこびりついて離れない。