手が解かれて、普段はかち合うことのない目の色にしまった、と思った。
「晃牙」
ライブ後のざわついた舞台裏に、ささやくように呼ぶその声がやけに大きく聞こえる。けれど、聞こえなかったふりをして、晃牙は着替えを進めた。零を見てしまったら、ダメだと思った。――少なくとも、今日、宿泊するホテルに帰り着くまでは。
「晃牙」
先ほどよりはすこしだけやわらかく、それからこちらの方へ手を差し出しているのが目の端に映ったから、ちろりと窺うように零を見やる。両腕を広げて、何かを待っているような体勢に、ついふらり、と足を進めた。
言い方も表情もやわらかい、けれど、もう全部知られてしまっているのだったら叱られてしまいそうな気がする。それでも、何より今日やるべきことにはもう力を出し切った、からもういいか、とも思って。
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