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    yuno_youga

    @yuno_youga

    20↑カイ潔推し、41右固定。
    3度の飯よりお風呂が好きです。

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    yuno_youga

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    魔法使いと青い薔薇(通称:まほばら)の影響を受けて書きました。

    ≪あらすじ≫
    魔法使いに長年憧れていたネスは潔たちから「三十歳まで童貞だと魔法使いなれる」という話を聞く。
    そして、カイザーと世一の二人に祝われながら迎えた三十歳の誕生日、ついに願っていた魔法が使ええるように!?

    Kiisは付き合ってますが、nskrは片思い状態
    序盤はネス視点中心のkiis、終盤はnskrになってます。

    #kiis
    #カイ潔
    chiFilth

    魔法使いになりたいネスは、三十路まで童貞でいるらしい 魔法使いは僕のずっと憧れの存在だ。
    絵本で読んだ騎士と魔法使いが竜を倒す物語は僕のお気に入りだった。
     両親や、兄や姉には『そんなくだらないもの早く捨てろ』とか『まだそんなこと信じてるのか?』などと散々馬鹿にされてきたけど、僕はいまだに信じ続けてる。
     この世には証明できない、謎、不思議、魔法とは言い切れなくても、化学では証明できないものを考えることが好きだ。

     だから、周りを熱狂させる熱を感じたくてサッカーをやっている。
    そして、今まで周りから蔑ろにされてきた僕が初めて出会った光、カイザーを信じ続けてここ、ブルーロックまで来たのだ。
     そんなある時、食堂でランチをしようと席を探していると世一達が集まって話しているのが見えた。ここでなにか有力な情報が得られればカイザーの役に立つかもしれない。鶏肉とサラダのシンプルな食事を選んで、世一達の会話が聞こえる後ろの席の方に座った。
     何も気にしない素振りをして聞き耳を立てる。

    「そういえばさ、潔くんて彼女とかいはったん?」
    「気になる気になる」
    「え、いないよ!そんなの」
    「意外だな。潔くん普段は優しいし、モテそうなのに」
    「読モやってた雪宮に言われるとなんだか嫌味に聞こえるんだけど……」
    「やだな。お世辞じゃなくて本音で言ってるんだよ」

    どうやら色恋沙汰で盛り上がっているらしい。随分とのんきなものだ。げんなりとしたネスだったが、いや、もしかしたら何か弱みを握れるチャンスかも!と思い立ち再度聞き耳を立てた。

    「バレンタインのチョコだって去年0個だったんだぞ」
    「せやったら今の潔くんなら全校……いや、全学校の子からチョコが貰えるかもやね」
    「羨ましい羨ましい」
    「気持ちはうれしいけど、貰いすぎてもなぁ……」
    「処理の仕方なら僕が教えてあげるよ」
    「流石プロは違うね」

     次は日本の文化についての話なのだろうか。やたらとチョコレートの話題が上がる。ふん、世一なんてチョコレートの糖質の取りすぎで太ってしまえばいいんですよ!あまり有力な情報は得られそうにないと判断して食べ終わった食器を片付けようとすると、ふとある『言葉』が耳に入った。

    「そういえば知ってるか?魔法使いになれる方法」
    「魔法使い?なんだそれ」
    (ま、まままま魔法使いになれる方法!?!?!)

    『魔法』それはネスのすべての原動力であり、一番の憧れの存在。
    科学者の両親に生まれ、兄や姉に馬鹿にされてきた『魔法使い』という一番なりたかった存在になれる方法を、惑星の相方である蘭世が知っているというのだ。

     これは聞き捨てならない。立ち会がった席を再度座り直し、水を飲んで心を落ち着かせる。焦るなアレクシス・ネス。ここで、ドジをこいてしまえばすべてが水の泡だ。大きく深呼吸をして再度彼らの会話に耳を立てる。

    「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしいぞ」
    「黒名くん……それは」
    「この間までやってたドラマの影響だな。うん」
    「え、何そんなドラマやってたの?」
    「潔君も知らないかんじ?人気作で映画もやってたよ」
    「あー……うん俺、テレビとかSNSとか全然見ないからさ。流行りとか全くわかんないわ」
    「まあ、それはドラマの話は抜きだとしても、結構有名な話だけどね」

    (えっっ!!日本では有名な話なのか!?)

    ネスは思わず手に汗を握る。まさかこんな極東でこんな話が聞けると思わなかった。
    30歳まで童貞、つまり、誰とも性行為をしてはいけない。
    しかしそんなことで、本当に魔法使いになれるというのだろうか?にわかには信じがたい話だ。

    「実際そんな奴みたことないけどなー。魔法使えるやつなんて」
    「やっぱり目には見えないんじゃない?魔法使いにしか見えないものだったりして」 
    「でも、見てみたいよな魔法。本当なのか気になる」
    「まっさかー! そもそも三十路まで童貞って中々やばくないか」
    「まあ、形はどうであれ何かしらの形で卒業する人は多いやろうしね。ある意味聖人の領域なんやない?」

    確かに、スポーツ選手になればモテるしたいていの場合は女性とそういう関係になるのが普通だ。ゲスナーだって自分の地位を利用していろんな女性をたぶらかしている。
    寄せることができるなら、避けることだってできるはずだ。
    魔法使いになれるなら、やってみる価値があるかもしれない。
     幸いネスは、まだ誰ともそういった行為をしたことがなかった。ならばこれが最後のチャンスかもしれない。
     ドクドクと高鳴る子度に胸を躍らせながら、その瞳には強い意志を宿らせた。

    (ついに、ついに魔法使いになれる日が来たかもしれない……!30歳まであと10年以上あるけど、これも修行だと思えば何とでもなる!)
    「おい、ネスなにそこで一人で笑っている」
    「あ! カイザー」
     ふ、ふふと不敵に笑っていると、カイザーに声を掛けられ現実に意識が戻ってくる。
     気づけば食堂に誰もいなくなっていた。いけない、僕としたことがつい考えこんでしまい、周りが見えなくなったようだ。いつまで経っても戻ってこないネスを迎えに来たカイザーは無表情ながら呆れたため息を吐く。

    「考えるのはいいが、せめて自室に戻ってからやれ」
    「はい、ごめんなさいカイザー……でも、いい情報が得られたんだ」
    「いい情報?」
    「はい! やっと掴むことが出来たんです! 魔法使いになれる方法を!!」 
    「は? 魔法……?」

     興奮気味に話すネスにカイザーは『何言ってんだコイツ』と眉を潜める。
    そんなカイザーなど眼中になくネスは夢の世界へとダイブしていた。

    「まっててください。僕は絶対魔術師になってみせるから!」
    「あ、あぁ」

    ネスの熱にやられて思わずカイザーは引いてしまうが、お構いなしに叫び続ける。キラキラと目を輝かせるその姿は、まさに御伽の国を信じる子どものような純粋な瞳をしている。

    「僕が! 証明してやるんだ! 魔法は絶対あるんだって!」
    「よくわからんが、ほどほどにしろよ」

     この時、ネスを止めなかったことをカイザーは後から後悔する羽目になるとは知らず、ネスを自室のチームメイトへと預けた。
     そんなネスはこの日久々にいい夢を見ることが出来た。
    僕の大好きなあの絵本だ。僕が魔法使いになって、あの悪き竜を懲らしめる。
     そんな懐かしく、憧れの夢をみたのだ。




     ◇◇◇




     あれから数年後、世一がドイツに来てからカイザーとだんだんと距離が近づいていき気付けば付き合い始めた。
    チームを巻き込み大喧嘩をしたり、移籍騒動があって揉めたり、その後結婚式を挙げたりと様々な日々あって今に至る。
     
     そして僕にとって運命の日が近づいてきた。
    30歳の誕生日まで後数日まで迫っている。
     この日を、この日をどれだけ楽しみに待ち侘びてきただろうか!
     怪しい宗教勧誘も、オカルトや陰謀論に唆かれて集会に呼ばれても僕は心が揺らがなかった。
     なぜなら僕だけの力で魔法使いになってみせると決めたから。もう誰にも頼らない、あんな蔑んだ日々を送りたくないから。それに、カイザーや世一のように自分の力で手に入れるからこそ気持ちいいんだと学んだ。

     そうして虎視眈々と『魔術師計画』を進めていた。
    日本の伝記をかき集め、会食では年俸釣られてやってきた女たちを避け、飲み会で酔い潰れて気づけば知らないホテルで女に迫られそうになった時も転げ回るように逃げ出し、なんとか童貞を貫いてきた。
     純粋無垢なこの身体にきっと奇跡が宿るはず……!


     


    そして今に至る。
    現在は誕生日祝いだとカイザーと世一の夫夫にご飯に連れてこられていた。

    「ネス誕生日おめでとう!」
    「おめでとうネス。お前の日々の労力には感謝してる」
    「ありがとうございます! まさか2人から祝って貰えるなんて思いもしませんでした」
    「なんだよそれー俺たちの仲なら当然だろ?」

     そうやって肩を組んでくる世一。あ、この人酔ってるなと一瞬で悟った。ほのかにアルコールの匂いがするし、何より顔が赤い。なんで誕生日である僕より先にお酒を頂いてるかは知らないが、あまりベタベタ触らないでほしい。カイザーから注がれる鋭い視線がとてつもなく痛いからだ。
     カイザーも世一と出会ってから随分と変わってしまった。紆余曲折あり、あの頃の殺意の熱量がそのまま愛に替わった結果、激重メンヘラ彼氏が爆誕したのである。
     まあそれは非常に面倒で、
    『世一に近づく男は全て抹殺しろ』『喧嘩して世一が家を出ていった……手分けして探し出すぞ』『世一に何かあったら困るから俺がいない間は頼んだネス』
     僕を信頼してくれる証ではあるが事あるごとに無理難題を押し付けて、世一のボディーガードをさせられている。
     なぜこの僕が!!っとつい叫んでしまいそうになるが、実際ドイツに来てからのアジア人特有の童顔で幼さもありながらどこか色っぽく、そして周囲を惹きつける魔力を持っているので危なっかしくてしょうがない。心の広い僕は世一の面倒も見てやってる。仕方なくだ。

     そんなティーンさながらの男に無駄にひっつかれ、目の前の主人に殺意を持った目で睨まれながら迎えた誕生日。
     今までいろんなことがあったが今日でそれらともおさらばだ。

    「ネスは30歳になるんだろう? うわーもう三十路かー! おっさんになったねえ」
    「おっさんっていうのやめて下さい。僕はまだ若いです」
    「そんなこと言ってぇ! 10代の頃より老けたぞ! 俺と同じく童顔だった癖にいつの間にか色男になりやがって!」
    「いや世一の顔が変わらなさすぎるだけでは?」

     世一だってもう30前後だというのに全然老けてない。
    いやむしろ、カイザーと付き合ってからスキンケアを徹底的に教えこまれたようで肌がティーンのように若返り、青い監獄で出会った頃よりもツヤツヤのもちもちになり若く見える。
     つまりこの男は、超がつくほど童顔なのだ。いつの間にかあのピンク髪の蘭世より顔立ちが幼いと感じる始末。
     カイザーも世一の童顔には悩まされているようで、夜に1人で外を出歩くと必ずと言っていいほど補導される。そんな世一を迎えに行くまではいいのだが、ある時カイザーはペド疑惑をかけられ、ついには家宅捜査をされたこともあった。
     まあ、2人は成人していているし、付き合ってる証拠もあるので事なく終えるたようだが、それ以来バスタード・ミュンヘンの運営からは「潔さんは夜に1人で外出しないで下さい」と忠告を受ける始末である。
     そのため世一のそばにはカイザーか、それが無理ならネスや他のメンバーが一緒にいなければならない。
    世一の童顔のせいで一体何度悲劇にあったか……思い出すだけで涙が止まらないが、今日は記念すべき日だ。気を取り直そう。
    世一とのやりとりをただ静かに見守っていたカイザーが口を開いた。

    「そういえばネス、30歳になったらやりたい事があるって言ってたよな」
    「え、なになんかしたいことあんの?」
    「えぇ、はい。ずっと憧れていたものにやっとなれるんです」

    ワクワクと話すネスに思わず首を傾げる世一。僕の夢を他人に語るのは馬鹿にされるので辞めようと思ったがこの2人にならいいだろう。
     ごほんとせきを払って真剣に2人を見つめる。

    「僕の夢、それは――」

     ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。2人もそんなネスの様子をじっと見つめた。
     声を震わせながら、ネスは告白する
     
    「魔法使いになることです」
     
    シーン――気まずい空気が流れ一瞬空気が凍った。

     何かを察したカイザーと今だによくわかってない世一が顔を見合わせた。
    「……。」
    「…え、あ、うん。それはお前の二つ名だな。それがどうした」
    「違う!そうじゃなくて、僕はずっと憧れてたものがあるんだ!」

     魔法とはなんなのか、ネスは熱く熱弁した。
    酔いが回ってたせいもあるかもしれないし、30歳になれると浮かれていたせいもあるかもしれない。
     とにかくネスは自分がどれだけ魔法を信じて、そして愛しているかを2人にプレゼンした。
     呆気に取られながらも、持ち前のメンタルの強さで1人でに飯を食べ進める世一と、目をそらして困りながらどうするかと思考する皇帝が見て取れるが構わない。
    2時間ベラベラと喋りながら気づけばあと数分で誕生日を迎える時間まで近づいていた。

    「世一達は言ってたじゃないですか!『30歳まで童貞だと魔法使いになれる』って」
    「うわ、それ懐かしい〜氷織たち元気にしてっかなぁ」
    「だから! 僕はそれを信じてここまで来たんだ!」
    「後で連絡とってみるか〜」
    「おい、世一少しは聞いてやったらどうだ。お前のせいでネスがこんな風になってるんだぞ」
    「ごめんごめん。それで、なに? だからお前って今まで誰かと付き合ったりしなかったの?」
    「そう、僕は魔法使いになるために、ここまで童貞を貫いたんです!」
    「ギャハハハハ!! やべー! お前の従者最高じゃん!! イカれてるよほんとに!」

     腹を抱えて倒れそうに笑う世一の身体をカイザーは支えてあげながら、これからどうやって帰ればいいのかと思案していた。
     ネスも世一もだいぶ酔いが回ってまともに歩けないだろう。世一だけでも面倒見るのが大変なのに、有頂天になり浮かれまくって暴走しているネスも部屋に入れたらきっとメチャクチャになってしまう。
     カイザーはネスのスマホを開いて誰かに連絡できないか覗いた。
     その間もネスと世一は魔法で盛り上がる。

    「え、お前、本当にあの迷信を信じ続けたの!?ヤバすぎじゃね」
    「うるせー世一! クソ世一にはわかんないでしょうね! 僕がどれだけ魔法を愛してるか」
    「わかったわかった。そんなに魔法が好きなら今度日本に来た時に、魔法の国に連れてってやるよ。」
    「え! 本当ですか!?」
    「マジマジ。きっとお前なら気に入ると思うよ」
    「やったー!! ありがとう世一!! 今まで散々な目に遭ってきましたが、これほど世一に感謝したことはありませんよ!」

     思わず世一に抱きつく。すると、すぐさま刺青が入った手が伸び「世一から離れろ」と牽制されて剥がされた。
     仕方なく、ネスは目の前にあった箒を抱きしめる。

    「ここまで辛かったです。本当に、魔法を信じてると言えば馬鹿にされ、童貞だとバレれば周りからは笑い物にされてパブに連れてかれそうになり危うく貞操を失うところだった」
    「ぷっ! クク……あったなそういうのもー。ゲスナーが『俺の女を紹介してやるぜ!』ってはっちゃけてた時か」
    「童貞であることは辛かったですが、それもこの日のためだと思えばなんて事ないです」
    「おい、そろそろ店を出るぞ。閉店する。ネスも荷物を持っていけ」

     涙を流しながら箒に顔を擦り付ける姿を見てまた世一は爆笑した。
     そんな2人を置いてカイザーは先に会計を済まし、店から出る準備を進めた。世一に脱いでいた上着を着せてあげ水を飲ませる。ネスには荷物を持たせて引っ張りなんとか外に出る。
     ネスを引き取ってくれる人物を呼ぶことができたが、来るまでに時間がかかるというので公園で待つ羽目になった。
     時刻は12時を迎えた。

    「おい、ネスぅ! もう12時すぎたぞ!! おら、お前のいう魔法とやらを見せてみろやぁ!」
    「あぁん!? いいですよ! 魔法の練習し続けた成果を見せてやる!」
    「おい、お前ら少しは静かにしろ。クソ近所迷惑だ」

     深夜の公園でバスタードミュンヘンの選手が叫んでいると週刊誌に取られたら面倒だ。
    運営にバレてしまえば一緒に居るカイザーまでペナルティを食らう可能性がある。仕方ないと騒ぐ二人の間に入ってカイザーは止めに入る。
    キャンキャン叫ぶ世一を抱きしめて落ち着かせていると、ネスは箒の先を使って地面に何やら描き始めた。

    「おいネス何やってるんだ」
    「フフフ、魔法陣ですよ! 過去に何度も描いてきたんだ、今こそ僕の力を見せる時ぃ!」
    「なぁカイザー、もしかしてネスって中二病ってやつ?」
    「その『チュウニビョー』とやらがどんな病か知らないが、ネスを止めるぞ」
    「今の僕はっ! 誰にも止められない!!」

    魔法陣を書き終わったネスはその中心に立ち、箒に跨って呪文を叫ぶ。

    「Besen, steh auf!」

     すると、魔法陣が光りだし、箒がふわりと浮き上がりネス足が地面から離れたのだ。

    「やた……!ヤッターーー!ついに魔法を使うことができた!!」
    「え! すごくね!! マジで浮いてるじゃん!」
    「いやいやいや、こんなのクソあり得んだろ……きっと何か仕掛けてるに違いない」
    「見ましたか! 魔法は、あるんだ!」

     ネスの身体は少しづつ宙に浮いていき、ついには木の高さまで飛び上がっている。箒に跨って自由に空を飛び回る姿はまさに、魔法の映画に出てくる光景と同じだ。
    世一はカイザーの腕に捕まりぴょんぴょんと飛び跳ねて興奮している。一方カイザーは目の前に起きている光景が受け入れられなく、額に手をおいて頭を振るった。
     
    「やべえこれ、撮ってSNSに投稿したらバズるんじゃね?カイザースマホ貸せ!」
    「それどころじゃないだろ、一体どうなってやがんだ」 

     アハハと笑って飛んでいるネスは、今までにないほど目を輝かせて楽しそうに笑っている。空を飛びながらネスはこれまでの苦労を思い出す。
    家族は魔法なんて、一切信じなかった。すべては科学で証明できると、そう何度も説明された。
    わかっている、魔法なんてそんなものはこの世界には存在しないことを。
     それでも夢を見続けるのは悪い事なのだろうか?何かを信じることはダメなのだろうか?
    神や天使、悪魔、幽霊、UMA、この世に存在するかわからないものに夢を見ることこそ、ネスにとっての一番のワクワクなのだ。その興奮はサッカーにだって同じだ。
     自分の運んだボールでシュートを決めてくれると信じ、フィールドの状況を変える”可能性”になること。
    初めてあった時『不可能はないと』言ってくれたカイザー。そして、己のエゴでカイザーを変え、サッカーを常に動かし続ける世一にも心を動かされた。
     二人との出会いは、僕にとって一番の魔法なのだ。
    だから、感謝を込めて二人に見せたかった僕の魔法。
     
    今この場で、見せることが出来てよかったと心から安堵する。

    「まさか本当に30歳まで童貞だと魔法が使えるようになるなんてな……。ん? てことは、俺も童貞だし魔法が使えるんじゃね?」
    「やめろ……世一まで魔法が使える様になったら俺の頭がおかしくなりそうだ」
    「えーいいじゃん!楽しそうだしサッカーにも役立ちそうだぜ」
    「サッカー馬鹿もそこまでにしろ。そもそも世一は非処女だから無理だろ」
    「そんなユニコーンみたいに条件が厳しいの……?」
    「俺が知るかネスに聞け」

     空飛ぶネスを眺めながら、たまにはこういう非現実的な事も悪くない。世一はカイザーの手をギュッと握って肩に寄り添った。

    世の中のあり得ないもの、説明がつかないもの、感想を与えるものを『魔法』だと言うならそうなのかもしれない


     

     ◇◇◇

    side:ネス黒

    ***

    「すまんすまん、場所がわからなくて来るのが遅れた」
    「あ! 黒名だ~」
    「クソ来るのが遅い」

     家でぬくぬくと日本から取り寄せた鍋を食べていたら、カイザーから電話がかかり『ネスがクソ酔っぱらって手が付けられないので来い』と急に呼び出された黒名。
     もうドイツに住んで何年か経つが、細い場所などは全然わからないので来るのに時間がかかった。
    3人を見ると随分と出来上がっているようで、立っているのもやっとの状態のようだ。

    「ほら、行くぞ。寒いし早く帰ろう、帰ろう」
    「やだーーーー!まだ僕は魔法を使うんですー!」
    「ぎゃははは!! ネスのやつまだ言ってるよ!」
    「世一……お前はどうして、他の男にばっかり笑いかけるんだ。俺を見るときはいつも睨んでくるくせに……。
     こんなにもお前のことで頭がいっぱいなのに、世一が他の男に興味を持つなんてクソ許さない。俺しか見えないように監禁してやる……」
    「なんだこのカオス状況」

     バタバタと暴れるネスと、潔の事を後ろから抱きしめて亡霊のようになっているカイザーと、それを無視してネスを見て笑いまくっている潔。
     いい歳した大人が何をやってるんだかとため息を吐く。
    倒れ込んでいるネスを捕まえて、とりあえず車に乗せる。
     カイザーと潔はまあ放っておいても大丈夫だろ。
    グスグスと泣いているネスを横目に家に向かって車を走らせた。

    「蘭世ぇ〜僕は魔法使いになったんですよ〜!」
    「そうか、すごい。すごい。」
    「今から魔法を見せてやりますよっ!ほら!」
    「……。」

     チカチカと光子どものおもちゃのようなペンライトを振り回して呪文を唱えている。しかし何も起きる様子がない。ただ楽しそうに笑っているネスの声が車内に響き渡る。

    「どうだ!見たか!!僕の魔法を!!」
    「はいはい、家に着いたぞネス」

     べろべろになったネスを引きずってなんとか家の中に入る。実はネスを家に入れたことは何度かある。
     カイザーと潔のことで悩んでる時は決まって俺のところに相談しにきてた。器用貧乏なネスなりにあの2人のことを心配してるのだと伝わってくる。
     2人で宅飲みしている時に『家族とは相入れない』と漏らしていた事がある。
     そうやら家族はガチガチの理系らしく、自分の考えを受け入れてくれないらしい。他の兄弟がいない俺からすれば、たくさん家族がいるのは羨ましかったが、そう言う家もあるのかと理解し、メソメソと泣くネスの背中を撫でてあげた。
     もしかしたら今回はその事と関係あるのかもしれない。

    「ネスは、なんでそんなに魔法が好きなんだ」
    「魔法は……不思議で世界を変えてくれるから。悲しい気持ちも、嬉しい気持ちも、全てを動かしてくれるものだから好き」
    「なるほど、ネスはロマンチストだな」
    「ファンタジーが好きで何が悪いんですか!どうせみんな心の中で馬鹿にしてるくせに」
    「俺は悪いとは一言も言ってない。魔法を信じていたっていいだろう」

     すると蒲葡色の大きな瞳がこちらを覗いてきた。
    まるで信じられないものを見るような目で瞳を潤している。

    「蘭世あなた……魔法を否定しないんですか」
    「俺は別にいいと思うぞそう言うものも」
    「初めてだ、魔法を否定しないんですか人に出会えたのは」
    「そうか、じゃあ俺がネスの初めてを奪っちゃったのか」

     嬉しい、嬉しいとルンルンとさせている蘭世が不思議と可愛く見えてくる。おかしい、やはり誕生日に気分が浮かれていつもより飲みすぎてしまったのかもしれない。
     そう思った瞬間急に自分が悪くなってきた。
     
    「うく……気持ち悪い……出る……」
    「吐くならトイレ行ってくれ。あ、水は渡しておくぞ」
     
     ネスは黒名からボトルを受け取り顔を真っ青にさせながらトイレへと駆け込んだ。

    『ぼぇええ……』
    「今のうちにゴミ袋と消臭剤を用意しておくか……」

    用意周到にしておけば間違いないと、寝室に準備しているとトイレからやつれた顔をしたネスがやってきた。
    「大丈夫か?ずいぶん派手に出していたようだけど」
    「最悪の気分です……あ、水ありがとございます」

     どうやら一通り出し切ったようでさっきの様な青白さはない。明日は午後練だが、この様子だと早く寝かせた方がいいと判断して、布団を捲ってポンポンと隣を叩いた。

    「もう寝るぞ。練習のコンディション崩す」
    「ごめんなさい蘭世、こんなにお世話になって」
    「別にかまわん。かまわん。早く寝るぞ」
    「はい、おやすみなさい」
    「おやすみ」
     
     照明を落とし部屋が静寂に包まれる。カーテンの隙間から覗かせる月夜の光と、お互いの呼吸音だけが聞こえてくる。
     隣に自分以外の存在が寝ているのが気になって中々眠りにつけない。狭い1人用のベットだ。スポーツ選手2人が並んで寝られるような大きさじゃないためとても窮屈に感じる。どこかいいポジションがないかとモゾモゾと身体を動かすと肩がぶつかった。

    「あ、すまん」
    「いえ、大丈夫です……」

     気まずい空気が流れる。目を瞑っても寝られないだろうと思った黒名は寝返りを打ってネスの方に身体を向けた。背中を向けて寝ているネスの身体をじっくりと観察する。
     カイザーやゲスナーなど他のドイツ人から比べれば、ネスは童顔だがここ最近は一気に大人びた気がするし、悔しいことにガタイも俺や潔よりもいい。普段キャンキャンと騒ぐ印象に対して一緒に並べば身長も高い。
    変に意識してしまい、ダメだと頭を振る。
     最近、ネスを見るとどうしても気になってしまう。カイザーや潔と違った自分だけ気を許しているような態度とか、ドジだけど必死で優しいところとか。
     いつの間にか目が離せなくなっていた。
    今の距離感がもどかしくて、でももっと一緒に居たくて……ネスに対して黒名は恋心を抱いていた。
     そんなこと、本人に言えるわけもなく今まで来たわけだが、現在、好きな相手と共にベットの上にいるのに寝られるわけがない。
     
    (落ち着け、一旦トイレに行って頭をリセットしてこよう)
     そう起き上がろうとすると、グッと腕を引っ張られた。
    見るとネスが自身の腕を掴んでいた。それもかなり強い力で。

    「どこに行くんです……」
    「ただのお手洗いだ」
    「やだ、蘭世……ここにいて。1人は寒くて寂しくなる」
    「……案外甘えただな」

     寝惚けているのか甘えてくるのがちょっと可愛いと思ってしまう。黒名は小さくため息を吐いて、再びベットの中に入り布団を被る。
     向かい合わせで寝るような形になり、スヤスヤと眠るネスの顔から目が離せなくなる。

    「もし、魔法があるのだとしたら、きっとこの気持ちも魔法にかけられているんだろうな」

     ギュッと目を瞑り、寝息を聞きながら胸を抑えた。
    この魔術師の魔法に一番かかっているのは自分なのかもしれない。


     



    ◇◇◇

    side:カイ潔


     カーテンの隙間から朝の柔なかなか日差しが差し込んでくる。
    その眩しさで目を覚ました世一は刺青が入った重たい腕をどかしてむくりと起き上がる。

    「あーーー頭いてぇ……なんか腰もだるいし、なんも覚えてない最悪だ」
    「世一……よいち……」
    「んあ?なにうなされてんだ。おーい起きろカイザー!朝だぞー昼練準備しなきゃ」

     ドスドスとお腹の上を刺激され、悪夢から目が覚め意識が現実に引き戻されていく。
    腹の上に世一が乗っかった衝撃で嗚咽する。
     
    「ぐぅ……っ、おい、いきなり腹の上に突撃するな」
    「おはようダーリン。いい目覚めだろ」
    「クソ最悪の間違いだ……」

     世一からのラブコールに起こされた。酷く頭が痛い。あまり酒に酔わない自信があったが、珍しく悪酔いしてしまったらしい。
    鳴り止まない頭痛に顔を顰めて気合いで起き上がり、浴室に向かう。シャワーを浴びた後髪を乾かすと、リビングからいい匂いがする。
     どうやら世一がご飯を作ってくれたらしい。

    「カイザーもう食パンが無くなりそう! 買ってこなきゃ」
    「ん、わかった。後で近場のベーガリーに行こう」
    「あと、洗剤も無くなりそー、プロテインはあったっけ」
    「右上の棚にまだ残ってたはずだ」
    「えーマジ?俺だとあの棚がちょっと届かないんだよなぁ」

     ドイツ人の身長に合わせて作られた高い位置にある棚を開こうと世一は背を伸ばしているが、後一歩届かないようだ。
     目を瞑り歯を食いしばって唸っている様子が大変可愛らしくて胸にキュンとくる。ほっこりと顔を綻ばせて、世一が取ろうとしている棚を開けて取り出してやる。
     
    「俺がとってやるからおチビな世一は大人しく座ってろ」
    「チビじゃねーし! これでも平均以上あるし!」
    「あいあい、ほら今日は何味がいい?」

     さりげない身長マウントを取られてギリっと上目遣いで俺を睨んでくる。そんな顔しても可愛いだけだといい加減学べKätzchen(子猫ちゃん)。
     いくつかプロテインの袋を下ろして、台所に置く
     
    「んじゃあカフェオレで」
    「ja、世一はミキサーにバナナと氷入れてくれ」
    「りょうかいー」

     バナナとプロテインを入れてミキサーのスイッチを入れる。ガガガと激しい音を立てて部屋中に鳴り響き数秒後、プロテインシェイカーの完成だ。
     世一が用意してくれたトーストの上に目玉焼きが乗ったパンと、サラダが食卓の上に並べられ席に着く。
    「「いただきます」」と手を合わせて優雅な朝食を食べ始める。

    「久々に飲み過ぎたよなー。カイザーも潰れてたし」
    「ネスと一緒になってクソみたいに飲むからだろ。世話をする俺の身にもなれ」
    「てかネスってどうなったの?なんか空飛んでた気がするんだけど」
    「人間が空を飛ぶわけがない。酔い過ぎて方向の感覚がわからなくなっただけだ」

     朝から戯言をぬかす世一にカイザーはハァ……とため息を吐く。確かに世一と一緒にネスが箒に跨って空を飛ぶ姿を見た。
     だが3人とも酷く泥酔していたし、あれはきっと酔っ払いが見た幻覚だ。そうに違いない。
    「そっか……」と肩の力を落としてシュンとする世一には申し訳ないがこれが現実だ。
     世一の丸い頭を撫でてから、テレビのリモコンを手に取り電源を入れる。昨日あった事件だとかドイツのイベントだとかどうでもいいニュースをBGM代わりに流す。

     朝食が食べ終わろうとした時だった。
    テレビから「昨日不可解な出来事が目撃されました」と画面に映し出される。
    「昨晩、男性が箒に跨って人が飛んでいるとミュンヘン東部の警察署に通報がありました。目撃した男性によりますと『深夜に公園で大きな声で叫んでいる人がいた。何があったのか様子を見に行くと人が浮いてたんだ!』と語っているとのことです。その時の写真がこちら」

     そこには、月を背景に黒い人型の影のようなものが映っている。よく見ると箒にまたがって空を飛んでいる男がいた。
    画質が粗いせいかハッキリは見えないものの柔らかそうな髪型は間違いない。ネスだ。
     
    「え、あれってネスじゃね!?」
    「……クソありえんだろ」
    「でも俺ら以外にも見たって人がいるじゃん!写真もある!」
    「誰かの合成だろ……」
    「いやいや、俺たち生で見たじゃん!間違いないって!やっぱネスって魔法使いだったんだな!」

     カイザーはくしゃりと髪を乱すように頭を抱えた。ネスが空を飛んだなんてそんなこと信じられるわけがない。
    人間が空を飛ぶ?ありえん。そんな非科学的なこと考えられないし、目の前で目を輝かせてる童顔エゴイストと一緒にはしゃげるほど、童心に還る純粋さはない。心を落ち着かせるために、無意識に青薔薇の刺青に手をかけた。

    「なぁなぁカイザー! ネスに電話かけてみようぜ。本当に魔法使えたか知りたい!」
    「んなもん今日の練習の時にでも聞けばいいだろ」
    「気になってそれどころじゃねーよ!」
    「おい、俺の携帯からかけるな」
    「だって俺の携帯から電話かけてもでねーもんアイツ」

     世一は俺のスマホを奪い去り、ロックを難なく解除してネスへと電話をかけた。
    プルルル─プルルル─
     数コールなるが、なかなか繋がらない。そのまま保留のコールが流れて切れてしまった。
    顔を顰めて世一は詰まらなさそうにして、俺へとスマホを突き返してきた。

    「ッチ……あいつ出ねーわ」
    「当たり前だろ。まだ朝早いんだぞ」
    「カイザーの電話なら絶対出ると思ったのにつまんねーの」
     ネスに電話で問いただせなかったことに興味が薄れたのか、そのまま残りのパンを食べ終えて食器を片付け始める。
    カイザーも世一に続いて洗い物をして、いつものように二人そろって家を出て練習場に向かった。

     
     練習場に着き、着替え終わって準備体操をしていると、そこで異変に気が付いた。
     いつも自分たちよりも早く来ているはずのネスがいない。俺が寝坊することがあっても、根は真面目なネスが俺よりも遅く来ることは今まで一度もなかった。
    ついでにあのピンク三つ編みの黒名も来ていない。

    「なぁカイザー、ネスを回収したのって黒名だよな」
    「あぁ、一番上に連絡先が乗ってたから適当に電話をかけた」
    「ネスはあんだけ酔ってたから二日酔いで潰れてるだけかもしんないけど、黒名が居ないのおかしくないか……心配なんだけど」
    「大丈夫だろ。何かあってもネスが魔法とやらで解決してくれてるんじゃないか」

     相棒的存在である黒名が見当たらないと隣で世一もソワソワとしている。心配するなと意味合いを込めて頭を撫でてやると、少し心を落ち着かせるために深呼吸した。
    例えチームメイトが私情で休もうと俺たちには関係ない。気持ちを切り替えて練習に集中しなければ。
     世一の手を引っ張って倉庫へ向かおうとした時、赤い暖色の髪型が視界に入った。
    蒲葡色と明るいピンクの特徴的な髪型は間違いない、ネスと黒名だ。
    二人の姿が見えて目に見えて世一は元気になり、駆け寄った。

    「おい、何遅刻してんだよ! Guten Morgen!」
    「Guten Morgen……じゃなくてもうお昼ですよ」
    「潔おはよう、おはよう」
     
    世一は飛び跳ねるようにして黒名にハイタッチして挨拶する。世一の後を追ってカイザーもやってきた。

    「どうしたネス。お前がクソ遅刻するなんて珍しいじゃねーか」
    「すみません……急な事態があって、取り乱していたら間に合いませんでした」

     慌てて来たせいか身なりも少し乱れている。
    ぜえぜえと息を吐くネスに、世一はニヤニヤと笑いながら肘でつついた。
     
    「何があったんだよ。まあネスのことだし、いつも取り乱してるようなもんだけど」
    「失礼な野郎ですねクソ世一、今度その双葉を引っこ抜いてやる」
    「そんなことしたら毎日俺の双葉を愛でてるカイザーが泣くぞ」
    「カイザー……そんなことしてるのか」

     確かに世一の頭に生えている何をしても潰れない双葉は魅力的だ。双葉を見れば世一の機嫌がいいか悪いかもわかるし、その日の調子も一目でわかるので便利で愛でている。なによりかわいい。
     いや、世一は頭のてっぺんから先まで全てかわいいが、語り出したら一日じゃ足りないのでここでは割愛しておく。
     ふと黒名の方に目をやるといつもより挙動が不審だと気づく。腰を痛めているのか、庇うような動きだ。
    その違和感には世一も気づいたようで、同じく首を傾げて指摘した。

    「黒名どうした? なんか腰でも痛めたのか?」
    「えっ!! ……いや、これはその、えとー……」
    「??」

     世一が黒名の肩に触れた瞬間、バチンと反射的に腕を弾いた。驚いた世一は目を大きく開いて固まる。
     
    「え! 俺黒名に嫌われるような事した!?」
    「違う違う!ちょっとビックリしただけで……」
     
     黒名は無意識だったようで手をあたふたと振って弁明をした。世一は気にするなと笑っているが、落ち込んでいるのが見て取れる。その証拠に頭の双葉がしなしなと倒れてしまっている。可哀想にとカイザーは世一の頭をヨシヨシと撫でてやった。

    「本当に大丈夫か?顔も赤いし体調悪いなら無理しない方がいいぜ」
    「大丈夫、大丈夫、俺のことは構わんからから練習行くぞ」

     黒名は誤魔化すように世一の手を取って練習場へと向かっていく。世一が取られてしまったのを残念に思いながらネスを見た。いつもは噛み付くように世一と喧嘩ばかりしているがやたらと静かだ。
     黒名といい、ネスといいどこか様子のおかしい2人が気がかりになりカイザーはネスに話しかけた。

    「おいどうしたネス。クソ黙りこくっていつものお前らしくない」
    「カイザー……」
    「2人の間に何があったか知らんが、サッカーにクソみたいな私情を持ち込むなよ」

    ネスに背を向けて練習場へ行こうとすると、グイっと服を引っ張られた。何事かと思い振り返るとネスは「相談したいことがあるんです」と目を逸らしながら自身に訴えかけた。それでももじもじとしているネスにハァとため息をついてデコピンを喰らわせてやる。「あいたっ!」とおでこを撫でながら目を潤すネスに早くしろと急かした。

    「なんだ早くしろ。もう練習が始まる」
    「あの、実は僕……」

    ――魔法が使えなくなったんです

     堪えきれずにべそべそと涙を流し始めた。カイザーはますます眉間に皺を寄せた。意味がわからない。
     魔法が使えなくなった? だからどうした。そもそも昨晩空を飛んでいたのがあり得ない。魔法が使える前提なのがおかしいだろと、色々と突っ込みたいことは山積みだが、自身の急を悟られないためにも、ポンポンと肩を叩いて落ち着かせてやる。
     冷静になれるミヒャエルカイザー。俺は不可能を可能にする男だ。例えこの世の物とは思えない出来事や、魔法だって受け止めてみせる。

    「……すまん、魔法が使えなくなったとはどういう意味だ?」
    「昨日僕は空を飛べたじゃないですか」
    「あぁ……クソありえんがテレビでも取り上げられてたし実際に飛んでたんだろう」
    「これで僕も魔法使いになれたと思ったんです!そのために今まで童貞を守り抜いてきたのに……!なのにっ……。」
    「守ってたのに?」
    「朝起きたら、いつの間にか童貞じゃなくなってたんだっ!」
    「そうか卒業おめでとう」
     
     それはつまり、セックスしてしたということか。めでたい話じゃないかと思ったが、当の本人は目元を真っ赤にさせながらポロポロと泣き続けている。

    「よくない! 僕の夢が一夜にして終わったんですよ!」
    「でも童貞を捨てられたじゃないか」
    「その相手も問題なんですよ!」
    「…………もしかして蘭世か?」

     頭を抱えるネスに今日様子のおかしかった黒名の名前を出すと『ア“ァ”アア』と声鳴き悲鳴を上げている。かわいそうに彼は狂ってしまったらしい

    「通りでクソ様子がおかしいと思った。初セックスで気難しい雰囲気になってる学生カップルかよ」
    「そう言うカイザーだって世一との初夜後は浮かれまくってましたけどね!?」
    「当たり前だ。世一は俺の初恋だぞ? あのチェリーエゴイストを落とすのにどれだけ苦労したかわかってんのか」
    「えぇ、1番の被害者である僕がそれを理解してますけどね!」

    そうじゃなくてと手を叩きネスは気持ちを切り替える。

    「別にいいだろ。お前と蘭世、なかなかにいい関係だったんじゃないのか?」
    「気はない訳ではなかったですけど……蘭世が僕のこと好きなのも知ってましたし」

     ならどこに問題があると肩をすくめる。申し訳なさそうに目を伏せながら手をモジモジとさせている。

    「だって、何も覚えてないんですよ! 昨晩どうやって帰ったのか、なんで蘭世と同じベットの上で裸だったのか! 謎の白い液体がこびりついてるのを見た時は発狂しましたよ」
    「そうか……」
    「カイザーだって世一との初夜を忘れたらショックでしょ?」
    「クソ愚問。俺が世一のことで忘れるわけないだろう」
    「はぁ……そうですか」
     
     ネスは謎のマウントを取られゲンナリとする。
    ドヤ顔をかますカイザーを無視してネスは続けた。
     
    「とにかく、このことが世一にバレたら殺されます……」
    「あいつ、蘭世の事可愛がって肩入れしてるからな…嫉妬でクソお仕置きするしかない」
    「蘭世にも申し訳ないですし、もう僕はこのチームにはいられません……! 早急に他のチームへの異動届を出さなければ」
    「おい、いつまで話してるんだ早く練習に入れよ、ストレッチ始まるぞ」
     
    2人で舞い上がっていると来るのが遅いと思ったのか、世一がやってきた。
    我に返り2人は顔を見合わせた。世一は大きな目を細めて睨んだ。

    「なんか、2人怪しくね? 黒名の様子といい何隠してんだ」
    「ななななんでもないですよ!ただ、昨日は飲み過ぎたなーって談笑してただけです!ね?カイザーあははは」
    「ネスが黒名と性行為をしたらしい」
    「「え」」
    「以上だ。行くぞ世一俺たちまで遅刻する」

    とんでもない爆弾を投げたカイザーは世一の腰を抱いてそのまま立ち去る。
    放心状態のネスと、情報が完結しない世一が正気を取り戻したあと大乱闘が始まった。
     



    END

     
     

     
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    yuno_youga

    DONE魔法使いと青い薔薇(通称:まほばら)の影響を受けて書きました。

    ≪あらすじ≫
    魔法使いに長年憧れていたネスは潔たちから「三十歳まで童貞だと魔法使いなれる」という話を聞く。
    そして、カイザーと世一の二人に祝われながら迎えた三十歳の誕生日、ついに願っていた魔法が使ええるように!?

    Kiisは付き合ってますが、nskrは片思い状態
    序盤はネス視点中心のkiis、終盤はnskrになってます。
    魔法使いになりたいネスは、三十路まで童貞でいるらしい 魔法使いは僕のずっと憧れの存在だ。
    絵本で読んだ騎士と魔法使いが竜を倒す物語は僕のお気に入りだった。
     両親や、兄や姉には『そんなくだらないもの早く捨てろ』とか『まだそんなこと信じてるのか?』などと散々馬鹿にされてきたけど、僕はいまだに信じ続けてる。
     この世には証明できない、謎、不思議、魔法とは言い切れなくても、化学では証明できないものを考えることが好きだ。

     だから、周りを熱狂させる熱を感じたくてサッカーをやっている。
    そして、今まで周りから蔑ろにされてきた僕が初めて出会った光、カイザーを信じ続けてここ、ブルーロックまで来たのだ。
     そんなある時、食堂でランチをしようと席を探していると世一達が集まって話しているのが見えた。ここでなにか有力な情報が得られればカイザーの役に立つかもしれない。鶏肉とサラダのシンプルな食事を選んで、世一達の会話が聞こえる後ろの席の方に座った。
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