「ごほっ、ゲホッゲホッッ」
頭に血が登り、目の前の男に殴り掛かる。荒くなる自分の息遣いと、司くんの咳が狭い倉庫に響いた。
人なんて殴った事が無かったから、握った拳がとても痛み、もしかしたらヒビが入ってるかもと思うも、それよりも慌てて彼の傍によった。
「司、くん」
「……………っ?」
司くんに名前を呼びかけると、ベトベトになっている口元を手の甲で少し拭いながら、キョトンとした不思議そうな顔をしていた。
服は前がはだけていて、かろうじて腕が衣装に通っている程度、下は見事に一糸纏っていない状態で、自分の手が痛いのを無視して、司くんに自分の上着を羽織らせた。
「………怪我、は……」
「していない」
「………っ、………」
しっかりとした受け答え。
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