昼下がりのまほろば 初めてアルハイゼンの家に入った時、無一文の自分の立場も忘れて趣味の悪い家具の配置や雑貨にひどく呆れたのをよく覚えている。この男は聡明な頭脳と美しい顔の対価にセンスというやつを草神様に捧げてしまったのだ。行く宛てのない身を家に置いてもらう以上、何か役に立てるものはないかと考えて、僕の建築デザイナーとしての経験を活かそうと思いつくのは自然なことだ。
だけど、アルハイゼンの家にはひとつだけ、スメールで名の通ったデザイナーである僕さえも手が出せない場所がある。
✧ ✧ ✧
「アルハイゼン!」
「……なんだ」
家の中でも自作のヘッドホンを外さない男はたっぷりと間をとって返事をした。遮音機能は使っていなかったらしい。しかし反応こそあったものの、わずかに細められた目が読書を邪魔された不満を語っている。
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