吸血鬼、あるいはヴァンパイア。
夜に墓の中から蘇る自殺者、破門者、早く埋葬されすぎたものの死体が一般的にそう呼ばれる。彼らはその長くてするどい犬歯によって人の生き血を啜る。その様から、比喩的に無慈悲に人を苦しめ利益を搾り取る人間の意でも使われることもあるが、それは置いておいて。
血を吸われたひとはこの夜のおとないびとの虜になり、自身もまた吸血鬼へと変貌を遂げる。
太陽や十字架、聖水やニンニクが嫌い。とはいえ日光はともかく、ニンニクを鼻先に突きつけたり聖水をばら撒いてやったらちょっと怯むというくらいであり、真に、永久に、彼らを絶やすには銀の杭を胸に打ち込み、四つ辻に埋めなければならない。
彼らが表舞台に姿を表したのは古代ギリシアやスラヴ、ハンガリーの伝説だとされている。地方で囁かれる民話、伝説の類であった吸血鬼の存在が広く一般に広まったのはロマン派文学の起りである18世紀末以降のことだ。
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