ヘクトールは一介の英霊である。
三桁を超えるカルデアの英霊の中の一騎。
そんな彼が唯一、他の英霊にイニシアティブを取れるのは、マシュ・キリエライトの次にカルデアに呼ばれた古株だと言うことだった。
長い長い旅路を越え、マスター藤丸立香との絆も己のトロイアと称する程に深まった。
そんなある日のこと。
ごく小規模な特異点に、マスターの護衛として同行したヘクトール。
他に三騎、高杉晋作・織田吉法師・エミヤオルタという前回関わり合いになった英霊と共にレイシフトしたまではよかった。
「で、見事にバラバラ……ね」
ここは吉原。異郷の遊郭街のど真ん中。
困ったように頬を掻く彼を、道行く人々は遠巻きに見ている。
流石に目立ち過ぎると、物陰に入り霊体化しようとした瞬間だった。
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