欠片 その白く透き通った首筋に指を這わせると、〈私〉は少し熱を帯びた声で囁く。
「誘ってるの?」
そんな訳ないでしょ、仮にも自分の身体なんだから。
ため息を漏らすと、〈私〉が咲(わら)う。
鈴を転がしたような声だ。生憎、わたしではそんな真似などできない。
「あなたがこの身体の主だったら、きっとわたしに見向きもしなかったでしょうね。」
無意識に棘のある言葉を紡いでしまう。
〈私〉に伝えたいのは、こんな言葉じゃない。
もっと濃厚で、だけど純粋な言葉。想いを伝えるにはありきたりかもしれないけれど、わたしにとってはどこまでも特別な言葉。
たったひとことが、ずっと言えずにいる。
いつも一緒にいるのに、伝える機会はいくらでもあるのに。
いつものように鏡の前に立ち、首筋に指を這わせる。
この行為はある種の儀式となって、わたしの身体に馴染んでしまった。
鏡に映る〈私〉の顔(かんばせ)が薔薇色に染まると、わたしの心は罪悪感に苛まれる。
その苦しみの中に、ほんの少しの嗜虐心が合わさり、溶け合って、甘美で崇高な儀式が完成するのだ。
わたしと〈私〉が繋がれる、大切な儀式。
〈私〉がどう思っているかはわからないけれど、少なくとも、わたしにとっては幸せな時間。
こんなものに依存してはならないとわかっている。
わかっていても、〈私〉が咲うから。
わたしは〈私〉に、騙されている。