窓の月 連日に渡る寝苦しい熱帯夜が、少しずつ遠ざかり始めた九月。特に飲み歩く用事もなく、リビングへ顔を出せば、出窓に見慣れないものを見つけた。
「ん……?」
近寄って見ると、出窓の床板に置かれた平皿の上へ、白玉団子が積み上げられていた。きっちりと三角錐に積まれた、その団子。俺は窓の外へ目を遣った。澄んだ夜空に浮かんでいたのは、目の前にある団子のような、真っ白で真ん丸な月だった。そうか。今夜は中秋の名月だったか。月明かりが眩しく思え、俺は思わず目を細めた――。
もともと、月は好きじゃなかった。見る時間と形によっては、まるで血のように紅く染まる。自分の身体まで紅く染められているようで、ガキの頃は紅い月が不気味でしょうがなかった。それだけじゃない。鬱蒼としたジャングルに身を潜め、いくら隠れようとしても、月は俺を照らそうとする。もちろん、月影ができるぐらい辺りを煌々と照らす満月は、一番嫌いだった。今でも、路地を行くときは、月から逃げるように影を選んで歩く。俺にとっちゃ、暗いほうが居心地がよかったんだ。
951