村雨様のお嫁様 村雨様がお通りになる。この土地ではある季節に雨の降ることをそのように表現した。そこに初めて訪れた男は、奥まって新しい文化の入る機会に欠ける土地独特の因習と言い捨てられない程度に、こびりついた何者かの気配を感じている。この土地を縄張りとするその何者かに挨拶でもするべきだろうか。男はそのようにも考えたが、果たして縄張りなどという意識を持つ相手なのか、挨拶をするにしてもそれ相応の手順や振る舞いやらがあったりはしないか。何より、ただ用件も伝えられないままに呼ばれて来た自分がどのぐらい滞在することになるのか、ともかく何一つわからなかったので、そのまま宿の一室に手荷物と共に思考を放り投げた。
「まあ、俺の知ったこっちゃねーわな」
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