2022.07.24「夕」 夏が好きだと言う兄は見た目からしていかにもと思いがちだが、実のところその責務に則してのことだと千寿郎は知っている。
休みの日ですらふと暮れた空に憂いの視線を投げるのも同じ理由だろう。兄は今ここにいれど、同じ空の下で今まさに鬼に襲われている人が、そして鬼と対峙している隊士がいるかもしれない。それが劣勢であれば、誰かが駆けつけてくれるか、はたまた――。
せっかくの静かな宵にそんなことを巡らせ、とっさに首を振る。昼間は歩くだけでぽつぽつと汗の噴き出すような盛夏であれど、日が暮れてしまえばそよそよと心地の良い風が昼間の熱を冷ましていく。夜も八時前という時間にして未だほんのり明るい空に目をやればどこか不思議な安堵を覚えるのはひとえに昼が長いからだ。昼が長ければ、ましてや夏の晴れ空続きとなれば、鬼狩りにとってはひと息のつける季節となる。兄を始め、いつもは激務に明け暮れる柱に次々休みが与えられるのもむべなるかなといったところだ。
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