いい子 兄上、僕はちっとも「いい子」ではないのです。「いい子だ」と手放しで褒めてもらえるような子ではないのです。
だっていつも兄上のことを考えているんです。兄上がある日いきなりお嫁さんを連れてきたらどうしようとか、おまえが一番だって言ってくれなくなる日が来たらどうしようって。そんな心配ばかりして、そのくせ兄上にいい子だって言ってもらえるように兄上の好物ばかり作ったり、兄上のお洗濯物をことさら丁寧に畳んだり、そんな姑息なことばかりして、いい子だなって言ってもらえるのを待ってるんです。
だから「いい子」ではないんです。
だって本当の「いい子」はそんなことなど考えないでしょう。いい子と言ってもらえなくてもちゃんとするのが当たり前でしょう。たとえ一番と言われなくとも、人には人の考え方があるものだと納得するでしょう。兄上がお嫁さんを連れてこようものなら、とても佳い報せだと心から喜ぶものでしょう。
819