涙は頬を流れない 深津は昔から、人気のない穴場を見つけるのが得意だ。幼少の頃、隠れ鬼は彼の独壇場であった。
そんなささやかな特技ゆえに、彼は時たま予期せぬ遭遇をする。それは大抵、人目を忍んで隠れているもの。例えば痩せた野良猫であったり、秘密基地に集まる地元の子ども達であったり、またあるいは――
その日深津は、ふらりとどこか静かな場所へ行きたくなった。なので考えるよりも先に立ち上がって、隣に座っていた河田へ「外の空気吸ってくるピョン」と彼のつむじを見ながら告げた。
河田は壁にかかった時計をちらりと見ると「半までには戻って来いよ」とだけ言ってそれきりであった。多くを語らずとも伝わる仲なのだ。
河田に任せておけば大丈夫だろう、という安心感に背中を押され、深津は山王の選手たちが寄り集まる一団からするりと抜け出した。
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