男性でも普通に妊娠する世界。
財閥の跡取り息子の双子
ナイヴスとヴァッシュ
ナイヴスは、幼い頃から経営学や経済学に明るく後継者として嘱望され、本人も社会を回す楽しさに目覚め楽しみながら才能を発揮している。
一方、ヴァッシュは経営者向きではないものの、類まれなる人心掌握術で社内外の有能者の心を鷲掴み。
足りないものを互いで補いつつ、うまく会社を経営していた。
ウルフウッドは、その双子が経営する会社の平社員。中途採用で入ってきたぺーぺー。
社内会議の準備や、備品の補充などまだ仕事らしい仕事もさせてもらえない。
生きていくだけ稼げればいいと、克己心も薄く目立つことも好まない。
ある日の深夜。
遅くまで翌日の会議の準備で社内に残るウルフウッド。なれない仕事に段取りもわからず、ぐだぐだと時間がかかる。
そこへ、会議に経営者サイドとして参加するヴァッシュが偶然現れる。
入社間もないことと、上の人間に擦り寄ろうという野心がないウルフウッドは、ただの同僚としてヴァッシュに接する。
社内に自分のことを知らない人間がいるとは思わず、面食らうも気さくな人柄と『普通の友人』として接してくれるウルフウッドに一気にひかれていく。
連絡先を交換して、親しくなりデートを重ねいつしか恋仲に。男性でも普通に妊娠する世界なので、避妊はしっかり。
とはいえ、ヴァッシュはそう遠くない未来に結婚し子供をつくるつもりでいる。
家庭環境と生育環境のせいで自分がまともな親になれるとも思ってないウルフウッドは、頑なに避妊しろとヴァッシュに言う。その事で喧嘩することもあるが、ヴァッシュはウルフウッドの意志を尊重する。
ウルフウッドの誕生日。
ヴァッシュは自分が超がつく金持ちである事を隠して付き合っている。
変に感づかれないギリギリのランクのレストランとホテルを用意(本当はもっともっと高いところに行きたかった)し、楽しく飲んで何時もより深酒をしてしまう。
ホテルも近い安心感もあったのだろう。
そのまま、ホテルでセッ。
先に起きたウルフウッドは、自分の状態に青ざめる。
セックスした後なのはわかる。体に残るキスマーク、気だるさ、隣で裸で眠るヴァッシュ。しかし、避妊具を使った記憶も形跡もない。
心臓バクバクさせながら、慌ててシャワーを浴びて震える指で掻きだす。なかから溢れるヴァッシュの精液。
一度中出しされたくらいで、妊娠なんかするものかと不安を抱きつつも何とかなると言い聞かせる。幸い、ヴァッシュも気がついていない。
不安から、産婦人科を受診することもなく日々を過ごす。ある日、体調が優れないことに気が付きぞっとする。
まさか、まさか、まさか。
ドラッグストアで妊娠検査薬を購入し、自宅で使用すると 陽性。
間違いであってくれと、産婦人科に駆け込む。
おめでとうございます。妊娠初期。
呆然とした俺を察した医師が
「いろんな事情があります。もし、諦めるのであれば期限は2週間です。それ以降は堕ろすことはできません」
その日から仕事休み、ヴァッシュからの連絡にも一切でないウルフウッド。
自分が親になれるわけ無い、実感もなく腹にいるらしい子の命を無碍に出来るわけもない。心配したヴァッシュからの着信は止まらないし、家にも来るし、落ち着かないので安いビジネスホテルに逃げ込む。
結婚や親になる事に明るいイメージが一切ないウルフウッド。あいつの人生を俺が縛るわけにいかん、不幸にする。
二度と出社することなく、会社を辞めて遠くに引っ越しをしてしまうウルフウッド。
あいつとの思い出を胸に、一人で産んで育てる。そう勝手に決めてしまう。
ヴァッシュも必死で探すが、全く足取りがつかめない。憔悴する弟についに、有能万能お兄ちゃんが立ち上がる。
ナイヴスは、使えるツテすべてを用いてあっさりとウルフウッドを見つけ出す。
どういうつもりで、消えたのか。また、弟を傷つけるのかとヴァッシュに居場所を伝える前に一人で会いに行く。
少し丸く膨らんだ腹に、賢い兄はすべてを察する。
「あいつの子か」
「ヴァッシュには内緒にしてくれんか」
「俺の弟はそんなに弱くない、あいつを頼れ」
そのまま、攫うように家まで連れ戻され号泣するヴァッシュと再会。初めて、ヴァッシュがお金持ちだと知りまたびっくりで、ハッピーマタニティーライフの始まり!
あれやこれやがあり、丸く収まったヴァッシュとウルフウッド。
不慣れながらもいろんな人の力を借りて子育てに奮闘する。
ヴァッシュは父親として仕事に励み、家庭もしっかり大切にする姿に、ますます社内での評価や信頼を得てゆく。
ウルフウッドは、子供ができたこともあり一旦は退職。落ち着いたら、短時間の社員として復帰をするか……という話も持ち上がっている。
ふたりがこうして幸せに暮らしているのもヴァッシュの兄、ナイヴスのお陰だ。お陰なのだが……
「ナイヴス、まだこんなに沢山買ってきて」
「たくさんではない、これでもかなり厳選した」
「せやかて、……そろそろ置き場ないなんで」
知育玩具が山のように積まれている。
「今の時期が一番大切なんだ」
「すごくありがたいけど、まだ1歳になった所だよ」
よちよちと幼子がナイヴスに近寄り、仕立ての良いスーツの足にきゅっとしがみつく。
「ないない」
まだうまく発音できない舌で、可愛らしく名前を呼ばれナイヴスがその場に崩れ落ちる。
視線を合わせ、小さな体をそっと抱き上げる。
「俺はこの子の為になら、世界の全てを敵に回しても構わない」
「……ナイヴスは極端なんだよ」