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    shizusato_xxx

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    shizusato_xxx

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    でっかい金木犀のある家を見て思いついた話
    台葬/ふんわり

    #台葬
    taiwanBurial

    金木犀のある魔女の家の話 魔女の家と呼ばれる古い家が通学路の途中にあった。
     その家は、冬から夏の間までは普通の家の顔をして、ウルフウッドの通学路に紛れている。
     今年の春から小学校に通い始めたウルフウッドには、どうしてこの家がそんな風に呼ばれているか、まだわからなかった。
     絵本でウルフウッドが知っている魔女は、毒の林檎を食べさせたり意地悪ばかりするので、きっと怖いところなのだろうと思っていた。

     初めての夏休みを終えると、二学期を迎え季節は秋を迎えた。
     ウルフウッドの学校では、朝は近所の子どもが集まって登校をする。先頭と最後尾に上級生がついて、まだ小さな下級生を安全に学校まで登校させる為だ。
     学年順に並ぶので、一年生のウルフウッドはいつも上級生の真後ろだった。上級生は歩くのが速いので、小柄なウルフウッドはついて行くだけでもやっとだ。
     転ばぬように必死に上級生の足下を見て、ウルフウッドはその日も足早に登校していた。すると、辺りからふわりと甘い良い香りがしてウルフウッドは立ち止まる。
     後ろに続く二年生がウルフウッドの真新しいランドセルにぶつかった。
    「うわ、どうしたの?」
     つっかえて集団登校の列が団子のような固まりになる。ウルフウッドの視線は香りの元へ向けられていた。
    「あ、魔女の家」
     ついて来ないウルフウッド達を心配して上級生が振り返って、そう言った。ウルフウッドが見上げて居たのは、皆が魔女の家と呼ぶ家だった。
    「まじょのいえ、ちうん?」
    「そうだよ、すっごく大きいでしょ。この家の金木犀」
    「キンモクセイ?」
    「このいい匂いのする木の名前。普通はね、この木はこんなにおおきくならないんだって。だから、絶対魔法使ってる。魔女が住んでるってお兄ちゃんが言ってた」
     その上級生には更に年上の兄がいた。確か、中学生のはずだ。
     小学校一年生のウルフウッドにとって、中学生といえばもう大人だ。その中学生が言っているのだから、この家は魔女の家で間違いなかった。
    「普通の木みたいだから花が咲くまでは、魔女の家のことみんな忘れちゃう。それもきっと魔法に違いないよ」
     そう上級生は付け加え、立派に咲き誇る金木犀の大木を見上げた。
     ぐるりと家の周りは立派な柵で覆われていて、周りの家と少し雰囲気が違うところもウルフウッドの目には異質に映った。
    「……なんや、こわい」
    「そう、だからひとりで近づいちゃだめだよ」
     ウルフウッドは上級生にくっつくようにして、その家の前を通り抜けた。

     授業が終わると、下校の時間だ。
     ウルフウッド達一年生と、上級生は一日の授業数が違うので帰りの時間も当然違う。五、六年生にもなると部活に精を出すものも少なくない。
     家が近い生徒達が集まって帰路につく。学校を出てすぐは、集団になっていた子ども達も、分かれ道の度にひとりふたりと減っていった。
     ウルフウッドが例の魔女の家の前を通りかかる頃には、ひとりきりになっていた。
     こんなに良い香りがするのに、本当に悪い魔女が住んでいるんだろうか。まだ、日も高く明るい中で見る大きな金木犀の木をウルフウッドは怖いと思えなかった。
     小学校一年生らしい好奇心と、持ち前のやんちゃな所がむくむくと顔を出した。中に入らず、柵から少しのぞき込むぐらいならきっと大丈夫。
     ウルフウッドは、周囲を見渡し誰もこちらを見ていないことを確認して、忍び足で柵に近づいた。
     家に近づくと、より金木犀の香りは強くなった。
     甘くてふんわりと漂う、良い香りを思い切り吸い込んだところで突然声をかけられた。
    「誰?」
     柵の中からだった。ウルフウッドは驚いたが、やっぱり怖いとは思わなかった。声の主が同い年ぐらいの子どものものだったからだ。
    「うわ、びっくりした、……おどれこそ、だれや?」
     目をこらすと、柵の中は色とりどりの花や植物でいっぱいだった。雑多に生えているようだけど、子どものウルフウッドが見ても彩りや配置が美しくて目を奪われた。
     その自然たっぷりで美しい庭の真ん中に、その声の主はいた。びゅうっと秋の少し冷えた風が強く吹いて、大きな金木犀が揺れて小さな花びらが舞う。
     山吹色の小さな花びらと同じ色の髪をした男の子だった。
    「僕はヴァッシュ、……くる?」
     見たことの無い庭に興味をそそられたのは間違いない。でもこの家は中学生が魔女の家と呼ぶ恐ろしい場所だ。どうしょうかと迷っていると男の子が手招きする。
    「おいしいクッキーあるよ」
    「クッキー? ほんまか?」
     食いしん坊のウルフウッドは、その誘いにあっさりと乗った。走るのもクラスで一番早い。怖いことが万が一起きたら、走って逃げれば良いと考えた。
     中に入ると、ウルフウッドの知らない植物がいっぱいだった。中に居た少年、ヴァッシュがいろいろと教えてくれたが、難しいカタカナばかりでウルフウッドにはバラしか覚えられなかった。
     誘い文句通り、ヴァッシュはおいしいクッキーと暖かい紅茶をウルフウッドにご馳走してくれた。
     作り込まれた庭にまるで溶け込むように配置されたベンチとテーブルがあり、そこにふたりは並んで座った。
     家では牛乳かお茶しか飲んだことのないウルフウッドは、紅茶を飲むのも初めてだった。
    「こうやって食べるとおいしいよ」
     ヴァッシュはクッキーを紅茶に浸して、ぱくりと食べた。家で同じ事をしたら、お行儀が悪いと叱られそうだと思ったが、そこは男子小学生だ。
     目を輝かせて真似をした。紅茶に浸したクッキーは、甘くほろりとほどけ、確かにおいしくなった。
     クッキーの甘みが移った紅茶も、ウルフウッドはとても気に入った。
    「なぁ、ここって魔女の家とちがうん?」
    「魔女? え、あのホウキに乗って空を飛ぶ?」
    「うん、魔女の家って言うとった、みんな」
     ヴァッシュは大きな目をひときわ丸くしてから、声を上げて笑った。その顔がとても優しくて、この場所が怖いところではないとウルフウッドは直感した。
    「ちがうよ、ふつうだよ。でも、僕のおばあちゃんは、確かに魔法使いかもしれない」
    「ええ! やっぱり、魔女や」
    「でも、怖い魔女じゃないよ」
    「ええ魔女?」
    「この庭を造ったの、おばあちゃんなんだ」
    「庭ってつくるもんなん?」
     子どものウルフウッドにとって、庭は庭でそこにあるもので作るという認識がなかった。砂場遊びのように、この庭を造っているのかと思うと少し不思議な気がした。
    「そう、種を蒔くんだ。でも、種の時にはどんな花がいつ咲くかなんてわからないでしょ?」
    「うん、わからへん」
    「でもおばあちゃんにはきっと見えてるんだ、その時がきたら一度に全部まいた種が咲いて、庭に魔法かけたみたいに一度に綺麗になる。今は、ちょうどその時だよ」
     ヴァッシュの言っていることがわかるような、わからないような不思議な気持ちで頷いた。
     たしかに、こんなに綺麗な庭を作るのは魔法みたいだなと、空から振ってくる黄色くて小さな花びらを見ながらウルフウッドは思った。

     それから、ウルフウッドは学校の帰りにたびたび、魔女の家に寄るようになった。ヴァッシュはいつも庭に居て、ウルフウッドを庭へ招き入れた。
     食べたことのない焼き菓子や、色んな香りのする紅茶で歓迎してくれた。良い香りのする庭で、ヴァッシュと過ごす時間をウルフウッドは楽しみにしていた。
     あっという間に時間は経過して、魔女の家の金木犀は完全に散ってしまい通学路から、あの香りも消えてしまった。
     下校中や休みの日に、魔女の家の庭を覗いてみてもあの少年はおらず、金木犀と一緒に消えてしまったようだった。
     冬の気配が迫る休日の午後、ウルフウッドはまた例の家へ足を向けていた。柵に手をかけると、ひんやりとしていて冷たい。
     数日前までは、そんな事なかったのにと小さな手をぎゅっと握った。
     綺麗だった庭に茂っていた緑の植物も、一部が枯れてススキのように茶色くなって冷たい風にそよいでいた。
    「あら、坊や……もしかして、ウルフウッドくん?」
     突然、緑の茂みの中から小柄な女性がひょっこりと顔を出す。ウルフウッドの名前を呼ばれ、驚いて頷いた。
     年齢はお母さんよりも、もう少し上くらいだろうか。ただ、外国籍の方のようでウルフウッドには正直なところ正確な年齢を察する事がまだ出来なかった。
     金色の色素の薄い髪の毛が頭のてっぺんでお団子になっている。くるりと巻き付けた髪の束から、いくつか後れ毛がたれている。くるくるしてふわふわで、まるでヴァッシュの髪の毛みたいだった。
    「やっと会えたわ、中にいらっしゃい」
     ヴァッシュがウルフウッドを初めて招いてくれた時を思い出して、躊躇いなく門をくぐった。
     ウルフウッドとヴァッシュがよく話をした、庭に置かれたベンチに座ると温かい紅茶とクッキーを出してくれた。隣に座った女性も、同じモノを自分の前に置くと躊躇いなくクッキーを紅茶へディップした。
    「えっと、誰なん? どうしてここにおるん? ヴァッシュはどこにいったん?」
     ウルフウッドは、頭に浮かぶ質問を一度に全部投げかけた。子どもなので順序も遠慮も何もない。その質問に女性は柔らかく微笑んで手にしていた紅茶をテーブルに置いた。
    「私は、ヴァッシュのおばあちゃんよ。ここは私の家なの。ヴァッシュはね、学校のお休みに私に会いに来ていたのよ」
    「今、ヴァッシュおる? 一緒に遊びたい」
     ウルフウッドがそう言うと、ヴァッシュのおばあちゃんは少し悲しそうな顔をした。
    「実は、ヴァッシュはもう自分のおうちに帰っちゃったの」
    「どこ? わいが会いに行く」
    「是非そうして欲しいんだけど、実はヴァッシュのおうちはここからすごく遠いの」
    「えぇ、歩いて行けへん?」
    「歩いては無理ね」
    「くるまでもあかん?」
    「車でも無理かな、飛行機に乗らなくちゃいけないわね」
    「ひこうき? わいのったことない」
     それから彼女は、家の中から世界地図を持ってきてウルフウッドへ見せてくれた。ウルフウッドが住んでいるのが日本で、ヴァッシュはイギリスに居ると教えてくれた。
    「これは、……ごっつとおいな」
    「えぇ。帰る前にヴァッシュは風邪を引いてしまってね。貴方にさよならを言ってから帰るって、すごく泣いたんだけどどうしても無理で。貴方に会えたら、お手紙を渡してっていわれてたのよ」
     ウルフウッドは、ヴァッシュのおばあちゃんから手紙を受け取ると大事にポケットにしまった。おばあちゃんの前で読むのが何となく恥ずかしかったからだ。
     改めて地図を見ると、ウルフウッドが住んでいる日本がウルフウッドの小さな親指くらいのサイズしかない。
     そこからイギリスまではページも違うしすごく離れていることがウルフウッドにもわかった。
     しょんぼりするウルフウッドを慰めるように、おばあちゃんはいつでもここにおいでと言ってくれた。おばあちゃんも少し寂しそうに見えたので、迷わず頷いて足繁く通った。
     それから、おばあちゃんもイギリスから日本に嫁いできたこと。庭いじりが趣味で、イングリッシュガーデンを作っていること。本国のおうちはそれは大きくて、立派な庭があること。そこに、ヴァッシュは家族と住んでいることを教えてくれた。
     ウルフウッドが足繁く通っているおかげで、その家が怖い家という噂話は次第に消えていった。
     その代わり、綺麗な庭を魔法みたいに作る魔女がいる家と呼ばれるようになった。この言い方は、ヴァッシュの受け売りでおばあちゃんも気に入っている呼ばれ方だった。

     ウルフウッドは中学生になっても、ときどきおばあちゃんの庭へ遊びに出かけた。知らない小学生が、おばあちゃんの庭で花の名前を教えてもらっている場面に出くわしたり、柵の前で中をのぞき込んでいる様子を見かけた。
     その度に、おばあちゃんは嬉しそうに子どもを招き入れていた。
     立派な金木犀は更に背を伸ばして、電線にまで届いていた。良い香りは通学路だけじゃなく、町中に広がっているようだった。この香りを嗅ぐ度に、ウルフウッドはヴァッシュを思い出して胸の奥がキュンと締め付けられる思いだった。



     □□□ □□□ 



    「だいすきな うるふうっどへ

     ぼくは、おうちにかえることになりました。
     すごくとおいところで、ひこうきにのらないとかえれませえん。
     きみにもういちど、あいたかったのでぼくは、ここにのこりたいとおねがいしましたが、まだぼくがこどもなのでだめだといわれました。

     ぼくは、きみのことがすきです。
     いまはまだできないけどおとなになったら、かならずむかえにいきます。
     
     それまでぼくをまっていてください。
     うるふうっどもぼくをすきでいてくれるとうれしいです。

     Vash」


    「ちょっと、もうそれ音読するのやめてよ」
     ふたりは高校生になり、魔女の家と呼ばれていたヴァッシュの祖母宅の庭のベンチに並んで座っている。
     子どもの頃は足もつかなかったのに、今はふたりで並ぶと少し狭く感じる。
     ウルフウッドは古い手紙を丁寧に開いて懐かしそうに見つめている。
     全てひらながなで書かれていて、文字も所々間違っている。幼いヴァッシュが書いたにしても、文字が拙くひらがなだけなのは普段イギリスで生活して日本語を使う機会が少なかったからだろう。
     証拠に、最後の署名だけは綺麗な筆記体で書かれている。
    「いやや、やめへん。わいの宝物やから」
     大分古くなってしまった紙が破れぬように、元の形にたたんで封筒にしまうとウルフウッドはポケットにしまい込む。
     今年の秋でヴァッシュは、イギリスの中等教育を終え日本の高校へ入学する。日本と新学期のタイミングがずれているため、ヴァッシュは二学期途中からの編入予定だ。
    「僕ね、すっごく頑張ったんだよ日本語の勉強。高校は日本の学校に行くって決めてたから!」
    「さよか、えらかったな」
    「……ねぇ、あの僕の手紙の事なんだけど」
     ヴァッシュの頬が赤くなっているのは、秋の冷たい風のせいだけじゃない。
    「おん、手紙がどうした?」
    「……今でも、君のこと大好きなんだ、だから」
     空から金木犀の小さくて可愛い花びらが落ちてきて、緊張した面持ちのヴァッシュの鼻先にちょこんと乗った。あまりにもその様子が可愛らしくて、ウルフウッドは口元が綻ぶ。
    「もう、ちゃんと聞いてる?」
     この家を魔女の家と呼ぶものは、もうこの町にはひとりもいない。その特別な呼び方は、ヴァッシュとウルフウッドだけの大切な思い出だ。
    「ヴァッシュ」
     ウルフウッドが名前を呼ぶと、ヴァッシュは嬉しそうに顔を近づける。鼻先にはひっくり返った金木犀の花びらが、まだ帽子のよう乗ったままだ。
     返事をする代わりに、ウルフウッドはその鼻先へそっと唇を寄せた。
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