フォラクレ① You found me 雨粒が窓枠を叩く単調な音。
それに合わせるように、俺は単調に言った。
「俺には語ることなんて何もない」
彼はタバコに火をつけ、ゆっくりと息を吸った。
「若いとはいえ何かあるだろう?」
「何もない」俺は繰り返した。
「ではたとえば、生まれたところは?」
「中部の田舎町。なんの面白みもないしみったれた町」
彼は何も言わない。
「みんなお互いを全部知っているような小さな町だ。誰が誰とヤッてるかまで筒抜けさ」
下卑たことを言ってみても彼は眉一つ動かさなかった。嫌な奴だ。
「あそこは俺の居場所じゃなかった。それでこの町に来たわけ。以上」
トン、トン、トン。小さな雨音が聞こえるほどの沈黙。
そう、俺は自分の場所が欲しかった。大きな町に行けば見つかると思った。だがそんな希望はすぐ消えた。ここで俺を見てくれる人なんていない。この都会に来て初めて見た野良犬というやつは、驚くほど自分にそっくりだった。
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