君のせいじゃあないまた悪夢を見た。内容は覚えていない。しかし飛び起きた時の冷や汗が尋常ではなかった。落下感とも違うその恐怖に、承太郎の脳裏にはカイロでの戦いが過ぎった。心臓を酷く跳ねさせながらも視界に広がる暗闇に目を凝らし、ここが日本の自宅である事を認めると安堵と苛立ちが混ざったため息が漏れた。そしてふと横を見ると、勇猛なスタープラチナが承太郎を見下ろしていた。無意識に呼び出していたのだろうか。
「悪い」
承太郎がごく小さい声で呟くと、スタープラチナは姿を消した。
あの五十日を共にした仲間の死は承太郎の深いところへ傷をつけた。しかし彼はそれを引きずらなかった。その傷を癒そうとはしなかったが、自ら傷口を広げるようなこともしなかった。彼らの死を理由にしていつまでも自分が腐っているのは彼らへの冒涜であると承太郎は考えた。深いところについたこの傷は風化も治癒もさせない。ましてや言い訳になど決してさせるものか。承太郎はそう自分に誓ったのだ。
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