Disinfect「あげはさん……! あげはさん、……もう、こんなところで寝ないでください」
耳慣れた声が夢とうつつの境を超え、空気を揺らした。
ぼやけた視界の先で、オレンジ色の影に紛れ眉をひそめながら髪を揺らす、綺麗な面差し。茜色の瞳。
私はなんだかほっとして、いつもの調子でにゃははと頬を緩めて笑った。
「あれぇ、少年じゃん。どうしたの」
「なんで玄関で寝てるんですか」
「……ん?」
首を傾げ、オレンジ色の光の中へ目を凝らす。
夜の闇に潜んでほんのりと色味を落としたステンドグラス。見慣れた天井と、鉢植えの緑の裏葉。
虚空を彷徨っていた座標がぴたりと合う感覚。虹ヶ丘邸の玄関だ。
「あ。ほんとだ」
ぽつりと呟くと、ツバサくんは「飲みすぎですよ」と言いながら大袈裟にため息をついた。
1533