いとおしい 牧紳一は、恋人───仙道彰の寝起きの悪さを知っている。
寝起きの悪さと言っても、不機嫌になるだとか、ぼーっとする訳では無いのだが、起きるまでの時間が常人の数倍、もしかしたら10倍以上かかってしまうのだ。つまり、春眠暁を覚えずをいつでもどこでも地で行く人間だと言うことだ。
仙道は、一度寝入るととにかく起きない。神奈川県選抜合宿でも、仙道と同室の神が「本当に、何やっても起きないんです……」と顔を青くして助けを求めて来た事件が記憶に新しい。
そんな恋人であるから、恋人と一晩過ごした翌朝、牧の方が早く目覚めるのは当然のことであった。
だが、牧はそれに不満を覚えたことは無い。むしろ、少し赤くなった目元、情事の跡が残る首筋、柔らかい唇からかすかに漏れる息、安らかに眠る恋人の顔を、牧だけが独占出来るのだ。何の不満があると言うのか。
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