太陽のような髪「じゃあお母さん達は夜までに戻ってくるからね、少し待っててね、ごめんね。」
そうやって心の底から哀しむような目をほとんど、毎朝見ていたと感じていた。
父親と母親の、サファイアとトパーズが混ざったグリーンエメラルドの色を持って生まれたあたしはその光景をくっきりと目に焼き付けている
小さい_といっても9歳までの出来事なのだが、朝早くからお母さんとお父さんは仕事で居なくなる。
お母さんは因論派の学者で、お父さんは傭兵だった。学術家庭、という家庭関係が少なくないこの知恵の国スメールで、学者と傭兵、ましてや砂漠の民として生まれた人と結婚するのはかなりの狂気だろう。砂漠の民は差別し続けられていたのだから
そうして砂漠の民と普通の学者の血が混ざっているあたしはその親の元に生まれた。
幸せな家庭に恵まれたのはとても良い事だと思う。実際あたしだってそう思っているのだ、が。
とにかく過保護、何をするにしても大人が必要だったのを覚えている
両親がいない間は祖父が面倒を見てくれたのをしっかり覚えていた
祖父の作るスパイスが効いたバターチキンカレーやどっしりとしたデーツナンはとても美味しくて、馴染みの味だったのを覚えているから。
そんな祖父から突然“好奇心”を誘われる事を言われたのを覚えている。
「なぁエメリ、砂漠に行きはしないか?」
突然砂漠、という単語が出たから私はぽかんと口を開けてしまった、絵本でしか見た事ない世界をこの目で確かめられるのはとても有難い事だったが、お母さんから口酸っぱく「砂漠は危険なのよ、もしその単語が出てきたらその人事怪しいと思いなさい。」と言われた程だった
「さばく?」
「そう、砂漠だ。俺の家があるんだ、少し遠いがまぁ夕方には着くだろうな。」
ニシシ、と笑うその皺が刻まれた顔は、まさに歴戦の勇者の様な眩しい物だった。
この時のあたしは噛み砕いて言ったら箱入り娘、砂漠も、外出も近場でしかした事がないし包丁とか刃物とかはもっての他、何もさせてはくれなかった。
仕方が無いからつまらない小説と絵本を読んでいたのを良く覚えている。
外出してキャラバン宿駅まで到着して一休みした所に、子供達がヒソヒソ話す
「アイツ、砂漠のジジイと同じ髪の色をしてるぞ。」
「あはっ、本当だ、きもちわるーい」
「オレンジの、魔物の体液を被った変な色だな、ギャハハ!」
その言葉はあまりにも卑劣で品が無いものだった、数秒後に大人がその子供達3人を怒鳴っていたが、その言葉はオアシスの底に沈んだだけで、心の中にはしっかり刻み込まれていた
泣きたかった、というより先に涙が出てしまった。
祖父の、おじいちゃんの髪の色を馬鹿にされたのが嫌でも分かった、悔しかった
「……っぐ、…………ぐす。」
祖父を心配させない為に我慢してた声が遂に漏れ出た、あっ、と声が出る時にはもう遅く、祖父の体に包み込まれていた
「なぁエメリ、俺のこのオレンジの髪の色、俺は誇りに思ってるんだ。」
「…っぐ……ぅん、しってる、」
「なんでだと思う?……俺はな、このオレンジの髪の色が太陽みたいだと思ってるからなんだ」
「たい……よう…?」
鼻水と涙で腫れたクシャクシャの赤い目をぱちくりと瞬きさせた。祖父の体温が心地よくて、暖かくて、心の芯がぽかぽかした。
「そう!太陽だ、太陽が無ければ人は寒いし、何も出来なくなっちまうだろ?だから、エメリも太陽みたいに輝きなさい。大丈夫、なんたって俺の孫だからな!」
その言葉が終わった瞬間、ぐいっと太陽の方向に大きく上に持ち上げられた、反射で暗く良く見えなかったが、祖父はきっと満面の笑みで口を大きく開き、笑っていたのだろう。
「ゆっくりで大丈夫だ、人は直ぐには変われないからな、ゆっくり、川の流れのように。」
今ではこのオレンジの髪が誇らしくなっている、伸ばしてる理由もそれが殆どだ
「皆!起きて〜!!朝だよ!」
今日も朝日が登って、太陽が出てくる
太陽が出ると、なんだか心もぽかぽかになる気がするのだ!
ちなみに、その後アーカーシャから連絡が届き、母にこっ酷く叱られたのはまた次の機会に話そうかな