役者のカノジョ。彼女の演技はとんでもない。
それはもう、「凄い」等と人並みの表現では表せない程に。
「先輩、よろしくお願いします!」
数分前にそう言った彼女の姿はどこへやら、今はその「役」その者になりきっている。
頭のてっぺんからつま先まで、所作がまるで「役」そのもので、彼女の目つきも、穏やかで緩やかな、斜め下に向かっている柔らかい目つきとは打って変わり、その真逆のつり曲がった鋭い目つきをしている。
演劇部のオーディションをした時も、天性の才能だと思った。
彼女曰く「おねえちゃんの歌と踊りを、役で表せたらいいなって思って、ずっと練習してたんです。」とのことで、完全に独学らしい。
この技術が独学で手に入るのか、と疑問にも思ったが、本当にどこの劇団にも入ってなかったらしく、無名のままこの学校に入学し、入部したらしい。
彼女の実力ならエリートな劇団にも入れると言うのに、勿体無いと思いながらもその演技を監督していく。
彼女がすぅ、と少し息を含めながら話す。
「貴方はこんな事も分からないのでしょうか?」
ゾッとする。この感覚は演劇の化け物を見た時の感覚と同じだ。
さっきまでほのぼのしていて、花を散らしていた彼女とは全く違う、「他人」だ。
呼吸の仕方、相手を見つめる瞳、手つきに姿勢。
感情を読み取りやすいとまでは自分で言っていたが、ここまで役を模倣できるか?
(…これはこの学校史上最高の演技になる。)
監督であり部長の俺は、唾を飲み込んだ。