この世界にあなたの残り香を ──賢者は役目を終えると世界から忘れ去られる。それでも、何も残らないわけではないのだ。
──私には一体何がのこせるだろうか。
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晶がミスラを寝かしつけるという行為は毎夜行われるものではない。晶がひどく疲れていたり、ミスラが帰ってこなかったり、いつやると決まっているわけでもない。週に何度かミスラと晶のタイミングが良い時─もしくはミスラが我慢の限界に達した時─に突発的に行われる儀式のようなものだ。
初めのうちは恥ずかしさもあって手を握って寝かしつけていたが、そう何日も夜遅くまで付き合っていては晶の身がもたず、ひと月もする頃には同じベッドで共に寝るようになった。
そうなったあたりから、不思議なことに、他の魔法使いたちがミスラと晶が共に寝ていたことを敏感に感じ取るようになった。朝起こしにくるヒースクリフは別として、カインとハイタッチをする際には「今日もお疲れ様」と言われるし、フィガロなんかは「妬けちゃうな」なんて茶化してくる始末だ。
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