【夏五】孤独な海月 小学校の遠足で訪れた水族館で、真っ白な海月を見た。薄暗い丸い水槽の中に、ふよふよと1匹だけ漂っていた。仲間はいないのだろうか、家族は――幼心に、広い水槽の中で彷徨う海月が寂しそうに見えて、なんだか私まで悲しくなったのだ。
すべて消し去ったと思っていたのに、意外にも記憶は残っているものだ。不意にそんな過去を思い出したのは、思いもよらなかった邂逅のせいである。
「なにしてるんだい、悟」
思わず声を掛けてしまうくらいには、奇妙な状況だった。
偶然、たまたま、旧知に出くわすことはある。猿どもが溢れかえった駅構内で、薄汚れたビルとビルの隙間で、忘れられて朽ちていくばかりの廃屋で。
けれどまさか、呪霊に乗って移動中の空の上で、かつての親友と出くわすとは思いもよらなかった。
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