アカデミーを卒業して2年。
パルデアの大穴から無事帰り道に辿り着けた仲であるオレたちは、また1つのテーブルを囲む友達でもある。
オレは卒業してからは修行の身であり、そろそろ他地方へと足を運んで、新しい料理を身につけようというところだ。
ネモ、ボタン、ハルトはオレとは違って、みんなリーグでパルデアの発展に貢献…というのは良く言った方で。実際はオモダカさんの『良い』部下として社会人としての第一歩を踏み出していた。
もう5月。
彼らは新生活でたぶん忙しなかったけれど、身体は慣れてきているはずで、ようやくご飯を食べようという誘いが出来た。何より学生時代からリーグにこき使われてるボタンから『ペパーのご飯が食べたい』と深夜でもないのに連絡が来るほどなのだから。もう結構慣れただろ。
どうせお酒を呑むのならと、いつでも寝落ち出来るようにオレの家へと呼んだ。
寮の部屋ほどのキッチンがある賃貸を借りていて、十分満足に生活を営んでいる。マフィティフ達もずっと元気で、よくオレの新作を食べてくれていて、本当に毎日が幸せだ。
さて、今日は何を作ろうか。
まずはオレが食べたいミネストローネ。野菜たくさん入れちゃえ。みんな健康にしてやろう。
それと、まぁ結局は肉だろう。
それでいてつまみになる方がいいよな。
エノキをバラ肉で巻いて串に刺して、調味料と酒とで焼いていく。エノキのシャキシャキ感も無くならないまま肉汁と絡まってめちゃくちゃ美味いんだこれ。あとはやっぱりさっと揚げた唐揚げだな。
結局は肉の方が多くてサラダも作ったら、ちょっとした居酒屋の完成だ。
お酒はたぶんあいつらのことだから各々好きなやつ買ってくるんだろうな。それでオレにはちょっと甘めなやつを用意してくれているはずだ。
『もう着く』
短めなメッセージが来たと思ったらコンコンコンと、ノック音。いくらスマホロトムでやり取りしてようが、部屋に来たらノックを3回するのがオレたちの中の勝手なルールだった。
鍵を回して扉を開けて出迎える。
「よく来たなー!おあがりちゃんだぜ!」
「ペパーやほ!もちろんあがっちゃうよ〜」
「おつ。お菓子とお酒買ってきた」
「ありがとなー!って、あれ」
ハルトは?
「言ってなかったけ?ハルトちょっとだけ残業なんだ。でもすぐ行く必ず行く!って言ってたよ」
「そか」
あからさまに萎んでしまったのを見て、ネモもボタンも先開けてようよ!と宴の開幕を促した。
ガサリと受け取ったビニール袋にはやっぱりオレが好きそうな甘めのお酒が入っていた。今回はさくらんぼか、美味しそう。
「なーオマエら、段々オレの好み分かって来てるよなー」
「今更?」
「そーだよー!早く食べよ!お腹空いちゃった!」
はいはい、と言われるがままのオレはやっぱり幸せだ。
「ペパーってシルバーのアクセサリー付けるんだ?」
お酒を少し飲んで、2人は少しほろ酔い。オレは強いわけでは無いからだいぶ気持ちよくなっていた。
「ぇ?」
「いやーだってさ、ゴールド付けてそうじゃん。髪の毛とかも明るいしさ」
「それな。前タートルネックに合わせてたのもゴールドのネックレスだったし」
「オマエら、すげぇな、記憶力…」
「そりゃね〜」
タートルネックって12月ぐらいだろう。それに本当にたまにしか身に付けないから、ここまで覚えられているとは驚きでいっぱいだ。
というかなんで今、アクセサリー?
お酒でゆるんだ頭の中。普段よりも瞼が重くて。それでもなんとか目を開けて2人の視線を見る。
あ。
2人が見ていたのはオレの首にかかっているネックレス。細いチェーンの中心には、シルバーのリングが光り輝いている。
その紛れもない大切な物を、まだ2人には見せていなかったし、どう考えても…そういうことだ。
「言ってなかった…これは、あのーハルトと」
何だか恥ずかしくて、口を籠らせながら言う。
「知ってるよー!てかハルトの手で散々見てるから」
「ウチも。手袋外す時によく見る」
「なんだよ。知ってんなら別に言わねーのによ」
「今更!でもペパーもちゃんと付けててなんだかちょっとホッコリしちゃう」
「そーかよ…」
酒だけじゃなくて、絶対自分の気持ちでも顔が赤くなっているのが分かる。さっきと比べ物にならないぐらい熱い。
「でもリングは夫婦で色変える人もいるじゃん?」
「ハルトは何気にシルバーの物多いから。ハルトがシルバーで、ペパーがゴールド。デザインは一緒、みたいなの想像してた」
「あーー、それは…」
まずい。これ以上オレ自身の惚気を聞かせていいのか…?わかんない、わかんないけど。
お酒に負けたってことにしちゃおう。
「シルバーだと、ハルトがここに居てくれる気が、して…」
後半はやっぱり尻すぼみ。こんなの恥ずかしくて、言ってしまった今、少し後悔が顔を出す。
照れて伏せていた顔を上げると、さっきまであれほど普通な顔色だったのに、2人は真っ赤に染まっていた。ほら、だからこうなるのは分かってるんだよ!
「はい!もうこの話終わり!」
勢い付けて、手に持っていた缶を一気に傾ける。それにようやく我を取り戻したのか、2人は「危ない飲み方しない!」とあわあわしだした。
もう今日は飲んで全部忘れてやる!
「で、こうなったの」
ようやくペパーの部屋に来たハルトは、部屋主がもう既に潰れているところを目の当たりにしていた。
「ていうか、2人ともさ僕に違う時間教えてたでしょ」
確かに残業はしたけどさ、とそのままダイニングテーブルに突っ伏している恋人の隣の席に座った。
「ごめんねハルト〜!」
「ごめん、ウチらちょっと気になってて」
申し訳なさそうな顔をしているが、声色には全く反映されていないし、全然こいつらまだまだ素面だろうと、ハルトは構える。
「ペパーから惚気を聞きたくなっちゃって…」
その言葉を飲み込んだ時には、やっぱりハルトの顔も真っ赤になっていた。