ハイエナの求愛行動が歌うことって知ってた? 「ユウくんへ約束のプレゼントッス」
ラギーがにっこりとユウの目の前に渡すのは黄色い百合のような花束。
「ラギー先輩、これは綺麗ですがただの黄色い花のようですね。私のお願いしたやつではありません」
愛想のない冷淡にそう言い放つユウは、自分が無理難題なことを言っているとわかっていた。しかし、ユウは向けられた好意に困惑していたのだ。自分の好きな人が自分を好きなのかもということがあれば昔話のような身分違いの恋ということでもない限りは現代では大抵、恋人同士になる。
しかしユウにとってはそれは許されない、そう思っていた。
自身が本来いる場所はここではない、いつ帰れるかもわからないのに誰かとお付き合いなんてしたらお互い辛い結末になる。そんなことにはなりたくないと彼女は心の中で境界線を引いているのだ。
ユウも16歳の高校生の女の子。好きな人はいるが推しとしてみるんだと自分に呪文のように何度も言い聞かせていた。そんなユウの想い人、ラギー・ブッチからスキンシップやらアプローチが続いているのに気づいてしまったのだ。
授業でたくさん空いてる席からわざわざ隣に座り、授業中に手を握ることから始まり別れ際には頭を撫でてくる。食堂で会うとお昼ご飯を分けてくれたり、モストロ・ラウンジでバイトが終わるとシフトが被っていなくても鏡の間で待ってくれていてオンボロ寮まで送ってくれるのだ。
ここまできてさすがに勘違いということはなく、ラギー・ブッチはユウに恋愛感情を持っている。己の環境に絶望することもなく毎日食らいつくようにNRCの問題児たちに負けないよう知らない世界で生きようとするその不屈の精神に気づけば夢中になっていた。
どうしたら自分を見てくれるだろう、意識してくれるだろかと模索しているうちにユウはラギーにお願いするようになっていったのだ。
荷物持ち、マッサージ、お使い…ユウが夕焼けの草原の第2王子のような嫌な女を演じようとしていることにラギーは早くも気づく。
幼少期から色んな人を見てきたラギーからすれば、ユウのやることは下手くそな嘘の振る舞いなのだ。それがまた子供ライオンのように可愛いと合わせていた。
痺れを切らしたユウはラギーに無理難題をぶつけたのだ。光る花が欲しいと。理由は光る花なんてあるわけない、みたこともないという理由からだった。そんなのはないとどうか早く匙を投げてくれないかとユウは期待していたのに嫌な顔せずわかったッスと言って昨日別れた彼は今、想い人に花束を渡す。
「まあ見てて」
1つ咳払いをすると息を大きく吸い彼は歌を歌う。ゆっくりと耳ざわりの良い声に思わずユウは聞き入っていると、ラギーは歌いながらもユウの肩を軽く叩き、下を指を指す。視線を向けると花束がだんだん暖かみのある黄色に光り出したのだ。
思いもよらぬ出来事にユウはわぁと声を漏らし、優しく光る花束を眺める。ラギーが歌い終えると、花束は光を失った。ラギーは終誇らしげな顔でユウを見つめる。
「どうやったんですか? 無理だと思ってました…」
「世界一可愛い人の我儘くらい、叶えてみせるッスよ」
しししっとラギーは笑いながらふわりと壊れ物を扱うようにユウを抱きしめた。